鳥篭の夢

Story/愛のカタチ



愛というものは急激に芽吹くものもあるけど、全てがそうではないと思う。
私なんかがまさにそう。急激に芽吹いたのではなく、ゆっくりと芽を出して育っていった感情。

唯、愛しいという感情に気付いたのは貴方が素っ気無い態度をとってからだったけど・・・素っ気無いって言うと少し違うのかな?
貴方はあの時、私と関わらないよう距離をとってた。
それが私にとってはただ不安で、見放されるんじゃ無いかって怖くて仕方なかった。


「ねぇ、レイ。どうしたの?最近何だか・・・」
「何でもねぇよ」

伸ばした手を叩かれた。一瞬、悪い事をしたと眼が訴えかけたけど、それもスグに逸らされる。
顔色はとても良いとは言えなくて、まるで何かを抑え込むような表情と仕草が不安を煽った。

「ちょっと外出てくる。ついて来るなよ」

念を押すような低い声に私は頷くだけで。身を翻して消えるレイの姿を追う事すら出来ない。
何だか自分が酷く無力で仕方なかった。力になりたいのに、私にはきっと力になる事が出来ない。
そう思うと情けなくて涙が出そうで。机に突っ伏してただ声を殺して泣いた。

「如何しちゃったのかな?」

私、何か悪い事したのかな?
レイに不愉快な思いをさせたのかな?

考えれば考えるほど不安になった。同時に酷い自己嫌悪にも・・・。きっとレイに何か悪い事をしてしまったのだ。
如何したら彼に赦してもらえるんだろう。兎に角、戻ってきたらすぐに謝らなくては・・・・・。
自分に言い聞かせて、それまでに涙を止めようと思い直す。そうする事しか私には出来ないから・・・。

トンッと屋根から下りてきた音。それから足音が響いて扉が開いた。

「ごめんなさいっ!」
「・・・・・・・あ?」

見れば、呆気にとられたレイの表情がそこにあった。

「何だ急に?何かやったのか?」
「え?だって私、何かしたんでしょう?・・・・・・・・・ぇ、あれ?」

言っていて、自分でも何だか不自然さを感じて首を傾げる。レイはただため息を1つ落とした。
困ったように自分の頭を掻いて、視線を逸らす。その仕草が酷く淋しい。

「レイ・・私、何かしたんでしょう?最近ずっと態度おかしいから・・・」
「そんなんじゃねぇよ」
「でも、それなら如何してこっち見てくれないの?最近目も合わせてくれないし、すぐに何処か行っちゃうし・・・。
何かしたならちゃんと言ってくれた方が嬉しいよ」
「何でもねぇって」
「でも、それじゃあ如何して・・・」

「何でもねぇっつってんだろっっ!!!」

あまりに強い言葉で、反射的に身体が震えた。それだけで狩る者と狩られる者がハッキリと分かれる。
普段は軽口ばかり言うのに一体如何したのかと疑問の念しか湧かない。そんなに私は不快な思いをさせたろうか。
そんな考えがレイにも伝わったかのように、彼は所在無さ気に視線を地面へと落とした。

「どうして・・・・?」

余りにも悲しそうな顔が心に痛い。彼が何を思っているのか分からなくてツライ。
まだ恐怖で声が震えたけど、それすらも今は如何だって良くて・・・・傍にいたかった。

「どうして、そんな顔するの?」

出来る事なら笑って欲しくて。
願うなら心を共有したくて。
それが我侭だと分かっていて自分じゃ止められない。

「レイ・・」
「・・・・・っ!?」

名前を呼べば酷く動揺した表情と視線が私を射抜く。それから不意に、手が私に伸びて・・・。

「レイ?・・・・・きゃっ!!」

腕を捻り上げられてそのまま壁際に追い詰められる。腕を固定されて僅かに身動ぐ事しか出来ない。
見上げれば、顔が今までよりずっとずっと近くにあって思わず息を呑んだ。
まるで熱を帯びているような瞳。その青い双眸が近づいてきて、私はただそれを見つめていて。

「・・レイ?レ・・・・・っんぅ!」

まるで噛み付くように口を塞がれる。ぬるりとした舌が口内に侵入してきて、まるで熱が伝わる様に私も熱い。
今自分がどうなっているのか分からなくて、ただ力が入らなくてズルズルと壁を伝って座り込んだ。
散々口内を犯し尽くされた後、漸く唇が離れる。レイは固定していた腕を解放して、ふいと背を向けた。

「・・・・・・・だから・・何でも無いっつっただろ。犯されたくなきゃ黙ってろ」

意味が分からない。今の行動の意味が分からない。
搾り出すような、苦しそうな言葉の意味が理解できない。

だけど・・・・今のレイを放っておくのは何だか違うような気がして・・・。

「いや」
「・・・・・はぁ?」

呆れたような声。それでも私は何度も首を横に振った。

「だって今のレイをそのままにしておきたくないもの。・・・ねぇレイ、私はそんなに弱いかな?
何も話せない?頼りない?信用できない??・・・・・家族だって言ってくれたのはレイなのに・・・・」
「・・・・
「ねぇ・・・私はレイの事が好きよ。誰よりも一番好き。
だからそんな風に自分を抑えないで、頼りにならないかもしれないけど私には何でも言って欲しいよ」

ドキドキと鼓動が高鳴る。少しでも貴方に気持ちは伝わっただろうかと不安になる。
私の心からの気持ち。レイの事が好きだって言う想い・・・・。

「俺には・・・自信が無い。情け無い話、本気になるのが怖い」

「怖い?」
「何時理性を失うか分わからねぇ。気分が昂るとただ本能に従うだけの獣になっちまう。
それが怖くない訳ないだろ?今すぐにでも大切なもんを傷付けるかも知れないからな」
「大切なもの?」

首を傾げる私に、1つため息が落ちた。

「お前だよ」
「私・・・が?」

確認する声に、一度頷く。どこか照れたように紅潮した顔が何だか可愛くて、それが心から嬉しいと思えて。
だから気付けば彼を思い切り抱き締めていた。

「なっ・・・!!」
「あのね、レイ。私もレイの事がとても大切だよ。
それに、そんなに怖がらなくても大丈夫!私だって弱くないんだから!」

呆れたようなため息がもう1つ。でもとても優しい顔をして私の頭を撫でてくれた。

「愉快だねぇ・・・」
「え?何が??」
「ずっとこうして触れていたかったんだぜ?お互いにさ・・。
それが笑い話以外のなんだってんだよ・・全く」

言葉に、私は思わず声に出して笑みを漏らす。それから次こそ優しいキスを1つ。
それが私と彼の想いが通じ合った日の事。


そうそう、あの時の彼の様子が変だったのは俗に言う“発情期”だったらしい。
まぁ・・・お互いの気持ちが分かってからはあんまり関係ない気もするけど・・・・。



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