鳥篭の夢

Story/想う覚悟



苛々とする反面、神経が研ぎ澄まされているのが分かっていた。否、そうなる理由も理解していた。
単なる発情期。そう言ってしまえば簡単だが、実際そうはいかないもんだと嫌な程思い知らされる。
遺伝子を残すという生存方法・・獣としての本能の1つである性欲の強く出る状況。それは案外厄介だ。

確かに、に好意を抱いていないと言えば嘘になる。だがあのお嬢さんは酷くそういう感情に疎い。
“好き”と“嫌い”は1つの意味しか持ち得ない。ずっとそんな風に見えたし、それならそれで良いと思ってた。
別に今すぐ死ぬ訳でもねぇし。この期間だけと距離を置けば、ゆっくりと時間をかけたとしても何ら問題は無い。

不意に己の手に視線を落とす。本能を抑え切れそうに無くて、伸びてきた手を叩いてしまった。
それでも無茶苦茶に犯してしまうよりかは遥かにマシだと自分に言い聞かせる。泣いてないだろうか・・?

漸く少し落ち着いて、部屋に戻──

「ごめんなさいっ!」

急な謝罪の言葉に、一体何が起こったのか理解出来なかった。

「・・・・・・・・あ?何だ急に?何かやったのか?」
「え?だって私、何かしたんでしょう?・・・・・・・・・ぇ、あれ?」

不思議そうにして首を傾げる。アイツなりに考えた上での行動なんだろうが先走る傾向があるからなぁ・・。
一度ため息をついて、何と返そうかと頭を掻く・・・と、俺を見る瞳とその仕草が視界に入る。
酷く可愛らしく魅力的に見えるソレに、抑えた筈の欲がまたゆっくりと首を擡げて、思わず視線を逸らした。

「レイ・・私、何かしたんでしょう?最近ずっと態度おかしいから・・・」
「そんなんじゃねぇよ」
「でも、それなら如何してこっち見てくれないの?最近目も合わせてくれないし、すぐに何処か行っちゃうし・・・。
何かしたならちゃんと言ってくれた方が嬉しいよ」
「何でもねぇって」
「でも、それじゃあ如何して・・・」

「何でもねぇっつってんだろっっ!!!」

思わず声を荒げて叫ぶ。とにかく、一刻も早く此処から離れたかった。せめて理性がある内に・・・。
そう思っていた筈なのに怯えた青紫の双眸が俺を射抜いて、ただ視線が地面へと落ちた。

何を躊躇っている?今すぐアイツを犯してしまえば良いのに。
何を戸惑っている?今すぐにこの部屋から出れば良いのに。

2つの思考回路が鬩ぎ合う。
相反する思考に身体が動かない。
傷付ける前に急がなければならないのに・・・。

「どうして・・・・?」

が小さく問う。非難するなら存分にしてくれ。その方が気が楽になる。
だけど、予想に反して視界にが入ってきて、ふわりと頬にあたたかな体温を感じた。

「レイ・・」
「・・・・・っ!?」

名前を呼ぶ声が理性を溶かす。今にも泣きそうな顔が艶めいてる様に錯覚する。
そのまま押し倒して思い切り啼かせてやりたいとすら欲望が駆け巡る。
あぁ、このままじゃマズイと脳の端で感じるのに、理性だけではもう己自身を抑えきれない。
頭では分かっているのに身体は既に本能に従順だった。

「レイ?・・・・・きゃっ!!」

気づけば腕を掴んで壁際まで追い詰めていた。
どこか潤んで怯えるような瞳も、身じろぐ仕草さえも煽っているようにしか思えなくてゾクゾクした。

「・・レイ?レ・・・・・っんぅ!」

噛み付くように口付ける。僅かに開いた唇から舌を侵入させて口内を蹂躙する。心地良い満足感。
深く深くを求めて、ただ舌を絡ませた。そうして犯し尽くしてから、ふと我に返る。
コレじゃあ本当にただの獣だ。本能に負けた自分が不甲斐なくてただ腕を離して距離をとった。

「・・・・・・・だから・・何でも無いっつっただろ。犯されたくなきゃ黙ってろ」

精一杯の強がり。目の前から今すぐにでも消えなければ・・・。

「いや」
「・・・・・・はぁ?」

思わず、呆れた声が出た。

「だって今のレイをそのままにしておきたくないもの。・・・ねぇレイ、私はそんなに弱いかな?
何も話せない?頼りない?信用できない??・・・・・家族だって言ってくれたのはレイなのに・・・・」
「・・・・

「ねぇ・・・私はレイの事が好きよ。誰よりも一番好き。
だからそんな風に自分を抑えないで、頼りにならないかもしれないけど私には何でも言って欲しいよ」

真っ直ぐに見つめてくる視線。ついさっきアレだけの事をされておいて、尚、俺を射抜く瞳。
獣の本能と欲望に負けた自分が醜く思えて、ただ強く拳を握る。

「俺には・・・自信が無い。情け無い話、本気になるのが怖い」
「怖い?」
「何時理性を失うか分わからねぇ。気分が昂るとただ本能に従うだけの獣になっちまう。
それが怖くない訳ないだろ?今すぐにでも大切なもんを傷付けるかも知れないからな」
「大切なもの?」

「お前だよ」

半分ヤケになった俺の言葉に、まるで呆気にとられたような表情。

「私・・・が?」

確認する言葉に頷いて返すと、不意に抱き締められた。メス特有の柔らかさと匂いにくらくらする。

「なっ・・・!!」
「あのね、レイ。私もレイの事がとても大切だよ。
それに、そんなに怖がらなくても大丈夫!私だって弱くないんだから!」

漸く出した本音を、まるで物ともしない笑顔。今まで悩んでた俺は一体何だったんだ・・・?そう思わされて思わず笑みが漏れた。
ただ、そのままの頭を撫でてやる。

「愉快だねぇ・・・」
「え?何が??」
「ずっとこうして触れていたかったんだぜ?お互いにさ・・。
それが笑い話以外のなんだってんだよ・・全く」

まるで同意するように笑う声に1つ口付けて返す。今度はもっと優しく・・・な。
ただ、まぁ・・・とりあえず今はこの性欲をどうするかが問題なんだが・・・・・・どうすっかな。



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