鳥篭の夢

Story/無知だった頃



城から出たばかりの私は何も知らなかった。
生きる為の術も何もかもを知らなかった。
それまでずっと統治する者としての知識以外を学ばなかったから仕方ないのだけど・・・・。
今考えれば笑ってしまうような事。
それもあの時の・・あの幼い私にとってはとても不思議で、そして強く知りたいと必死だった。


「・・・さて、と。そろそろメシを考えねぇとな」
「めし?」

レイと出会って間も無く、空が夕焼けの赤に染まった頃。そう呟いたレイに私はただ首を傾げた。
だってあの頃は“メシ”なんて単語を聞いた事が無かったから何の事だか全く分からなかった。

「レイ、めしってなぁに?」

そう問う私にレイが酷く怪訝そうな顔をしたのを今でも良く覚えている。

「メシはメシだろ?
・・・・・・・あぁ、そういやアンタは王女さんだったもんな。“食事”って言ったほうが良かったかい?」
「あ、お食事!そっかぁ、お食事のことをレイは“めし”って言うのね。
でもお食事ってシェフが作ってくれるんじゃないの??」

「・・・・・・ゆかいだねぇ」

そう言って呆れた顔をしたのも、良く覚えてる。
本当にあの頃は何も知らなかった。待っていれば料理が出てくる。掃除はメイドがしてくれる。
自分で何もしなくても不自由ない生活がそこにあった。自分でするなんて考えた事もなかった。

その日はレイが狩ってきてくれた鳥を丸ごと焼いて食べたんだったかな。
でもどう食べていいのかなんて全然分からなくて、鳥を目の前にじーっとしてた。

、食わねぇのか?」
「・・・これってどう食べたらいいの?」

そんなやりとりが暫く続いた。城でも丸焼きが出た事はあったけど内臓とかは処理してあったし。
それにシェフが切り分けてくれたから私はそれを頂くだけだった。
だから本当に血抜きも内臓の処理も何もしないで焼いただけの鳥はどう食べていいのか分からなかったんだよね。
何とか食事も終わって、夜は獣に襲われない様に念の為木の上で寝る事にして・・・。

「ねぇ、このまま落ちない?」
「しっかりつかまってりゃ落ちねぇよ」
「ほんとう?」
「何なら下で寝るか?獣におそわれても知らねぇぜ?」
「・・・・・・ううん。ここで寝る」

なんてやりとりもしたっけ。
まだ翼で空は飛べなくて、だから怖くてレイにしがみついて。
だけど見上げた夜空がとても綺麗で───

「きれい」
「あ?」

あぁ、そうだ。初めての広い夜空だった。城の窓から見えた小さな空じゃなくて広くどこまでも広がる空。瞬く星。
それに吸い込まれるように、私はただじっと空を見上げていた。

「どうした?
「ねぇ、星・・キレイだね」
「あぁ・・・」

私の言葉に漸く気付いたみたいにレイも空を見上げて。ふわふわの尻尾がゆらゆら揺れた。
何かを思うような表情。その意味は私には分からなかったけど・・・。

「星なんて・・・」
「え?」
「あんまじっくり見た事なかったな」
「そうなの?こんなにキレイなのに・・」

手を伸ばせば届くんじゃないかって思ってその通りに実行すれば“届く訳ないだろ”って笑われて。
そうして2人で身を寄せ合って、その日はそのまま眠りについた。
温かい身体が心地良くて1人になってからずっと残っていた不安がその時に全部溶けて消えて・・・・。

“きっと何とかなる”

そんな根拠も何も無い単語がただ私の中にあった。
・・・まぁ結局住む所も生活面もなんだかんだ少しずつだけど何とかなった訳なんだけども。



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