鳥篭の夢

Story/何時以来かの



「はぁ・・・」

遠くに聳えるウインディア城を見上げて、ひとつため息が落ちた。
確かに旅をした時は何度か立ち寄った事はある。先に進む為に必要だったから。
だけどそれが終わった今、二度と見る事すらないと思っていたのに・・・。

「母様が私を呼ぶなんて・・・」

一体何の為に?疑問だけが私の頭を掠めて行く。
事実として血縁関係にあったとしても私は死んだ事になっている筈なのだ。
黒翼の王女が生きていたなんて決して周囲に知られてはいけない。
だから呼び出すなんて私からすれば変な話でしかない。

「本当に如何したんだろう?
“見つからない様にこっそり来てくれ”なんて・・・」

伝えに来てくれたニーナも何度も念を押すように言ってたっけ。
まぁ家族に歓迎されるのは嬉しいと思う。ずっと離れてただけに・・・すっごく。

「とにかく・・・行ってみるしかないよね?」

その為に此処まで来たんだし。
ウインディアの外れにある小屋。前にウインディアから抜け出した時使ったポートのある場所。
起動したままのソレは光の柱が伸びていて、乗ると同時に浮遊感。光が一気に私を包み込んだ。


お姉様!」
「わっ!ニーナ、待っててくれたの!?」

飛び出すように抱きついてきたニーナを何とか抱きとめて・・えっと、誰もいない?

「あ、兵士には少しの間外してもらってるんです!だから安心してくださいね」
「そうなの。でもそうでもしないと入れないもんね、ありがとう」
「いえ。元々はこちらが呼んだんですし、ね!」

満面の笑み。背中の小さな翼が嬉しそうに震えていて可愛い。
それから私から離れると手を引いて歩き出す。

お姉様、こちらです!」

まるで小さな子供みたい。弾む声、軽やかな足取り。
途中のキッチンには見慣れた人達ばかりに見えたのは気のせいだったのかな?
気を使ってもらったのかもしれないけど何となく聞きそびれたまま進む。
そうしてたどり着いた先は・・・大広間。
様々な料理が並んだテーブル。メイドも全員見知った顔。あの頃より年を重ねているけど・・・。
それから父様と母様の姿に息を飲む。大丈夫。今日は呼ばれたんだから。

「そう固くならないで?気を楽になさいな。
「ぁ・・と、その・・・」

何て呼べば良いのかすら言葉が出てこない。えぇと、こういう時は何を言えば良いんだっけ?



父様の低くて優しい声音。

「久しぶりに家族一同が揃ったのだ。そう身構える事も無いだろう?」
「そうですよ!お姉様」
「・・・父様、ニーナ。ありがとうございます」

じわり。優しく響く言葉。家族だと仰ってくださった。私を“家族”だと。
それが・・それだけが嬉しくて、涙が出そうになる。

「ごめんなさい、。貴女には無理を言いましたね。
だけど今日は貴女が生きていると知って1年経った日・・・。
母にとって大切な日。だからこそ、どうしても皆で食事がしたかったの」
「そう、だったんですか・・・」

1年前。通行証を手に入れる為にニーナとレイがウインディアに行って・・・。
あぁ、そういえば失敗したんだっけ。あの時はしまったって思ったけど、でもだからこそ父様と母様に会えた。
運命の巡り合わせ?なんて都合の良い考え方だけど、もしかしたらそうなのかも。

「でもニーナには無理をさせてしまったわね。
を呼ぶ事もそうだけども今回の事は全て任せてしまったわ」
「いいえ!お母様!!それに、わたしだって会いたかったから・・。
誰一人欠けず、家族全員で食事だってしたかったから良いんです!」

家族全員。そう・・ウインディアの、血筋としての家族全員。
そんな食事はいつ以来していなかったっけ?
ニーナを送った後の食事会は全員でしたから・・家族だけは本当に小さな頃だけ。

「父様、母様、ニーナ」

3人を呼べば、全員の顔が私へと向く。
今、私の顔はどうなっているのかな?ドキドキと胸が鳴って、どんな顔をしてるのかも分からない。
だけど、ちゃんと笑顔になっていたら良いと思った。

「ありがとうございます。本当に・・・本当に、ありがとうございます。
こんな風に全員でまた食事が出来るなんて、まるで夢みたいで・・本当に嬉しく思いますわ」

こうして皆の前にまた“家族”としていられるなんて。
涙が滲む。頬を伝って流れ落ちる。だけど、それは悲しいからじゃなくて。だから止めようとも思わなかった。



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10000HIT記念、完。
拙い作品ではありますが、最大の感謝を込めて。
2010.04.07.凍架



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