鳥篭の夢

Story/それが叶うなら



「・・・・・・あ、れ?」

豪奢なドレス。見慣れた城。ウインディアの・・・・でも。

「如何して此処に?それにドレスなんて・・」

ずっと着た事が無かったのに。小さな頃、ウインディアの城にいた時以来。
あれ?何があって、如何したんだっけ?思い出せない。

「あら様、如何なされたんですか?」
「あ、いえ。何でもないわ」

勝手に口から言葉が突いて出て、とにかく歩き出す。
えぇと、ちょっと待って。今のって新しいメイドじゃなかった?あれ・・・?

「ぇ?」

新しいメイド?それは別に良いのだけど・・・私を知らないなんて思ったのは何で?
良く分からなくなってくる。キオクが薄れていく感覚。大切なものすらも、ボンヤリと。
何が現実だったのか、何が夢だったのか、くらくらする。

お姉様、どうかなされたんですか?」
「あ、ニーナ。何でもありません。それからお姉様と呼ぶのは・・・」
「?何かおかしかったでしょうか?」
「・・・・・あ、え?」

おかしい?

「・・・おかしい、かしら?」

そんな事は、ない?

「ふふ・・お姉様ったら変なの。一体、如何なさったんですか?
あ、もしかしたら公務でお疲れなのかも!此処最近忙しかったですし。
もぉっ!あんまり無理をさせないようにってお母様にも釘を刺しておかなくちゃ!
お母様ったらすぐにお姉様に任せちゃうんだから・・・ね!お姉様」
「あ・・そう、ですね。ありがとうニーナ」

お礼を言えば普段と変わらないニーナの笑顔。
これが現実だったんだっけ?分からない。今まで夢を見ていたのかしら?
公務が忙しくて、だから自由になった夢を見ていただけ・・・?


「──ね、可笑しいでしょう?それでね・・・・・お姉様?お姉様ってば!」
「あ、ごめんなさい。ニーナ」

気付けば考えに耽っていた。ずっと違和感が拭いきれなくて・・・。

「いえ、やっぱりお疲れなのでは?」
「大丈夫ですよ、ニーナ。ただ・・・」
「ただ?」

不思議そうに首を傾げるニーナに苦笑。
これを伝えるのはとても変な事だと分かっていて、それでも口が動く。

「ただ、不思議な感じがして仕方がないの。
此処が本当に私の居場所だったのか分からなくなって・・」
「そんな・・・!お姉様はわたしといるのは嫌、ですか?」

泣きそうな顔。それに首を横に振った。

「違うの。だけど・・・・」

ふと窓に自分の姿が映って息を飲む。翼の色が──白、い?

「・・・・・ぁ」

白い翼。ずっと願っていた。願っていた?当たり前だった?違う。
当たり前にある筈が無い。だって私は黒翼を持って生まれたのだから。
じゃあコレは何?白い翼。陰が薄く青く色付いているだけの普通の色をした翼。
幼い頃に願ってやまなかったモノ。本当に?じゃあ今この背にあるものは何?
現実と夢がごちゃ混ぜになって気持ち悪い。
本当はどちらが現実なんだろう。これが夢?それとも今までずっと妄想に耽っていただけ?
分からない・・・分からない。頭が、痛い。

「違・・う。やっぱり、違うんだよ。ニーナ・・・」
「お姉様っ!!?危な・・・!!!」

身体が反転する。ずるり、一歩下がれば都合良く階段に足を滑らせて落下。
それはずっと深く。ずっと暗く。何処までも何処までも落ちていくような感覚。
ただ頭が痛い。ズキズキ。くらくら。



「───!!」

誰かの声。誰・・・の?

「・・・ちゃんっ!」

酷く心配そうな。

「姉ちゃん!!」
「・・・・っ」

最初に飛び込んできたのは泣きそうな青い瞳。次に、心配そうな赤い瞳。
それから、その先にもう1つ少し不安そうな青い瞳。あぁ、良かった。心からそう思う。

「大丈夫!?すっごい音がしたけど」
「でも良かった。このまま目を覚まさなかったら如何しようかと思った・・・」
「心配性だなぁ、リュウは」
「でもティーポだって慌ててただろ?」
「それはそうだけどさ!」

大切な弟達の何時もと変わらないやりとり。
日常。現実。分かる、大丈夫。こっちがホントウでさっきまでのがユメ。
勿論、翼だって黒いまま。城を追放されて、ニーナや父様、母様とは一緒には暮らせないけど・・。
でも間違えない。これが現実。だって目の前には大切なもうひとつの家族がいるから。

「ったく、一体どうしたってんだ?」

呆れたレイの声。でも心配してる瞳と声音。

「あは、足を滑らせちゃったみたい。ごめんね、驚かせて」
「あのなぁ・・・疲れてんなら最初っから休んどけ」
「そうだよ姉ちゃん!後は俺達がやるからさ!!」

ティーポの言葉にリュウが何度も頷いて・・ごめんね、心配させちゃって。
でも不謹慎にもその心配が心地良いと思ってしまうのはきっとさっきの夢の所為なんだろうな。

小さい頃に考えた事がある──“もしも翼が白かったら”
だけどそれが現実に起こったらリュウともティーポとも・・・レイとも出会えなかった。
確かに最初から知らなければ悲しくは無いのかもしれないけど。
もう出会ってしまったから、家族としての時を過ごしてしまったから──。

私はコレで良いの。今の、この黒い翼のままで・・・。



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