鳥篭の夢

Story/他愛ない...



「ねぇ、幸せだね」
「あ?」

唐突な私の言葉にレイが怪訝そうな顔をする。
別段特別な何かがあった訳じゃない。だけどそれが逆に酷く愛しくて幸せだと感じる。

「ずっとこうしていたいよね、レイ」
「如何した?。変なもんでも喰ったのか?」
「あ、それ酷いよ」

別に変な物を食べた記憶は無いんだけどな。皆と全く同じメニューの宿屋の食事を頂いただけよ?
そう言ったら“そりゃ失礼しました”って・・全く、レイったら!持っていた枕を投げたら簡単に避けられて残念。


「それより、は一緒に行かなくても良かったのか?」
「ん?・・・あ、リュウ達の事?」
「ニーナと2人で遠くの釣り場に行くなんて危ねぇって言うだろ?普段なら」
「そうかもね」

さっきの事を思い出して緩く瞳が細まった。今は宿屋で、たまには休息も必要だからって今日は自由行動。
最近そういう時にニーナとリュウで遠くの釣り場に行きたいなんて言う事があるんだよね。
普段なら心配だし、危ないから・・なんて止めるんだけど今回は普通に見送ったからレイは不思議に思ってるみたい。
でも理由は簡単なんだよ?

「ほら、最近リュウも疲れてるでしょう?あちこち歩かなくちゃいけなかったり戦闘が続いたり・・・。
今回はちょっと久しぶりの休養だし、リュウ達がそれで少しでも元気になれるなら良いかなって思ったの」
「なるほどな」
「それにもう2人とも小さな子供じゃないしね」

“危険な相手には挑まないでしょう?”って言ったらレイも頷いてくれた。
リュウもニーナもそんなに無謀では無いと兄ちゃんも姉ちゃんも信じてますよ?というのが今回の理由の1つ。

「・・・後、ほら。見張り以外でレイと2人きりなんて久しぶりでしょう?」
「そういやそうだったな」

何だか言葉にするのは少しだけ恥かしい。でもそれも理由の1つなのよ?
今みたいに自由行動になると意外と他の皆と一緒にいる事が多かったりして・・・レイとはあまり一緒にいられない。
ベッドの上に寝転がる。さらさらとしたシーツが心地良くて、開いた窓から入ってくる風も気持ち良い。


「・・・気持ち良い。こうしていられるのって本当に幸せなんだよね」
?」

不思議そうな顔。それにくすくすと笑みが漏れた。

「あの時の、離れ離れになった時は・・・1人だった時はそんなの感じていられなかったから。
“皆を見つけなきゃ”ってそればっかりで、本当にそれだけで・・・」

確かにまだティーポは見つかってないから終わりじゃない。“本当の幸せ”って言うと少し違うけど、でもそれはまだ。
だけど2人が・・・リュウとレイがいてくれるから少しだけ周りを感じられるようになったとは思う。風とか、陽射しとか。

「そうだな」

レイも頷いた。ずっと1人で、何年も1人のままで、私達の仇をとろうとしていたレイ。だからこそ分かるんだと思う。
多分、漸く彼は少しだけ周りを感じられる“ゆとり”を手に入れたんだと思うから。
それ以上の言葉を重ねるわけじゃなくて、そっとレイの手が寝転がったままの私の頬へと伸びる。温かい手。

「ティーポも早く見つけなくちゃね。それからシーダの森に帰って、皆でお昼寝するの」
「そりゃあ最高だな」
「でしょう?」

肩を竦めるレイに私は笑う。他愛ない事をするのが一番幸せを感じられると思うんだけどな?
レイと、リュウと、ティーポと。家族皆で昔みたいにお昼寝するの。窓から入る風も陽射しもきっと心地良い。
もし雨が降ったらきっと私が慌てて洗濯物を入れに行ったりして・・・ホッと一息ついてから皆で笑う。

「きっと幸せだよね」
「ああ。そうだな」

笑う。レイも私も。きっと未来がそうなってくれるであろうと信じて、今はただ・・・・。



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1000HIT記念・レイ編、完。
拙い作品ではありますが、最大の感謝を込めて。
2008.07.18.凍架



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