鳥篭の夢

Story/再会の夜



パチパチと炎の爆ぜる音が響く。
何の気を利かせたのかそうじゃないのか、今はレイと2人で見張り。
色々話したい事もあった筈なのにただ何も言葉が出てこなかった。
静寂が何だか耐えられなくて言葉を捜す。

「あのね・・レイ」
「ん?」
「あの・・ごめんね?叩いたの」
「あぁ、気にすんな」

会話終了。
確かに普段からもあまり色んな事を喋る方でもなかったけど・・・何だか困った。


「ずっと・・」

ぽつり、レイが言葉を零す。

「ずっと・・ね、死んだものだと思ってたんだ。
リュウもも・・」
「うん」

それは何となく分かっていた。
だからこそ復讐しようとしていた事も。

「お前らを守れなくって、不甲斐なくて・・俺だけ生きてるって思ったら惨めで・・・」
「でも私はあの時留守番してたし、あんまり気負わなくても良かったんじゃないの?」
「そういう問題じゃねぇよ」

コツリと本当に軽く額を小突かれる。
余計な事だった?

「それで・・裏組織の事を調べ上げて、馬鹿みたいに暴れてたんだ」
「うん」

忌嫌ってた力を行使してまで・・でもそれは裏を返せば私達をそれ程までに大切だと思っている証。
それは本当に少しだけではあるんだけど、嬉しいと思う。

「でも・・もしこれを見てたのがティーポだったら多分怒られたんじゃない?」
「かもしれねぇな」
「マクニール邸に忍び込んだ時みたいに嫌味と皮肉のコンボだね」
「・・・だろうな」

レイが肩を竦める。あの時を思い出してか、少しだけ苦笑も混じって。
それからその表情を曇らせた。

「ティーポは・・・」
「ティーポも生きてるよ」

断言する私に、レイが驚いた様に顔を上げた。
・・・あ、やっぱりティーポは死んでるって思ってるんだよね?レイ。

「だってそうじゃない?私達3人が生きてるんだよ?
それなのにティーポだけ・・なんて」
「・・・・あぁ、そうだな」
「そうだよ。だから大丈夫、きっと見つかるよ」

ただ笑う。どこから来るのか分からないけど、何でかそう確信できた。
それは7年前に離れ離れになったあの時から何にも変わらない。
ずっと、信じ続けていた事。

「・・・、お前ずっとそうやって探してきたのか?」
「え?うん」
「生きてるかどうかも分からない、俺達の事を?」
「うん。だってリュウが生きてるのは分かってたし・・それなら皆生きてるかなって。
それに、私だけが生きてるなんて“アリエナイ”って思ってたしね」
「アリエナイ?」
「そうでしょう?
私があの中で一番非力なんだよ?」

笑顔のままそう答えれば───

「なるほどな」

って言って、レイも笑う。
普段なら“それはそれで何だか失礼だよ?”って言う所だけどね。
でも間違いではないし、本当にそう思ってた事だから今日は何も言わない。

「早く見つけてあげなくちゃね、ティーポの事」
「ああ」
「淋しがりだし甘えたさんだもんね」
「意地っ張りだけどな」
「確かに・・」

レイの的確な指摘に、くすくすと笑う。
多分再会してもティーポは“平気だった”って言うんだろうな。
淋しくなんか無かったって・・そんな風に言うんだろう。
それは容易に想像できる。

「リュウはアレで頑固だし、ティーポは意地っ張り・・大変な弟達だよね」


「ん?」

呼ばれてそのまま顔を上げて、唐突に1つキスが落ちてきて・・・・・・ん?

「・・レイ?」
「───生きてて良かった」

まるで吐き出すような言葉。
それから強く抱き締められる。

「・・うん?如何したの?急に」
「オウガー街道でを傷つけた時、どうかなるかと思った」
「大丈夫だよ。リュウも一緒だったし・・・それに私はそう簡単に死なないよ」

簡単に死ぬつもりだって無いんだよ。
そう笑って言っても、抱き締める腕の力は緩まない。
1つだけため息を落として空を見上げる。これじゃ見張りどころじゃない。
広がる星空は何時もと変わらなくて、不意にシーダの森にいた頃を思い出させる。
ふ、と息を吐いてレイの胸に頭をつけた。
触れている箇所からあたたかさが滲んで、ずっと求めていたその温もりに緊張が緩む。
遠く。それはきっと私の記憶の奥で、小さな2人の笑い声がした気がして・・・。
幸せな記憶。
嗚呼、どうかティーポが無事でありますように。
瞳を閉じて、心から祈った。



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