鳥篭の夢

Story/哀悼



「ガーランドさん・・?」

名前を呼ぶ。
ぼんやりと炎を見つめているガーランドさんの瞳が私へと向いた。

、か。如何した?」
「もうそろそろ見張りの交代の時間ですよ」

本当は少し早いんだけどね。
でもガーランドさんは“そうか”とだけ言ってまた目線を炎へと戻す。

「いや、まだ大丈夫だ。
もう少し俺が見張りをしよう」
「・・・このままじゃ寝付けませんか?」

無言の肯定。でも仕方ないと思う。
だって大切な人が死んでしまったんだから・・私には分からない苦しさはあると思う。
ずっと一緒に戦ってきて、自分よりも早く疑問を抱いて戦いを抜けたガイストさん。
ディースさんの封印を解く為とはいえ、それでも喪ってしまった事には違いない。
1人の生命を犠牲にした事には・・。

「・・・んー、じゃあ少しだけお酒に頼っちゃいましょう!
寝酒程度になら飲んでも差し支え無いでしょう?」
「だが・・」
「このままガーランドさんが眠れないと、私が心配しちゃいますよ?」

黙り込む。・・・うーん、駄目そう?
ガーランドさんはお酒好きだから大丈夫かと思ったけど。
少しだけ悩むように眉間に皺を寄せて、それからガーランドさんは深く頷いた。

「・・・ふむ。ならば寝酒として貰おうか」
「はい」

それは私に気を遣ってくれたんだと思う。
私もこれがお節介だって分かってる・・まるでニーナみたいな、ね。
でも・・それでもお酒がきっとガーランドさんにとって良い方向に働いてくれると信じて・・・。
トクトクと小さなグラスに注いでそれをガーランドさんに渡す。
1人じゃ味気ないからって・・・・私も一緒に、本当に少しだけ。

無言だけど、ガーランドさんの雰囲気がさっきよりも和らいだように見えた。
炎を見据える瞳。それは先程のようなぼんやりとした虚ろなモノじゃなくて、今はもっとしっかりとしている。
少しだけお酒効果があったかな?


「不思議なものだ」

ポツリ呟くガーランドさんに“何がですか?”と訊ねれば、僅かに瞳が細まった。

「俺は幾多の竜族を殺してきた。
アイツが言った事の意味も当然理解している。
だが・・・それでも尚、アイツが・・・・ガイストが還った事に哀悼の念を抱くとは・・・」

“思わなかった”とガーランドさんが言葉を続けた。
ガイストさんの言葉───“ガーディアンになった時から死んでいるのと同じ”だと。
あっけらかんと、ごく当然の事なのだと明るくガイストさんは告げた。
それをガーランドさんも分かってるのだと・・・だけど、私は・・・。

「私はそれで良いと思います」

だって親しい人が亡くなったら・・大切な人を喪ってしまったら、誰だって苦しい。
“死んでいるのと同じ”は、それでも生きているって事だから・・・それが亡くなってしまうのはツライ。

「悲しんでも良いし、悔しく思っても私は・・・。
だってそれはごく当然の感情でしょう?
それを無理やり抑える必要なんてないんですよ。
今まで如何だとか自分が如何だとかも関係ない。あ、でもやっぱり───」

言葉を止めるとガーランドさんが怪訝そうな顔をした。
それに緩く笑んでみせる。

「やっぱり、忘れない事が一番ですよね」

「・・・?」
「喪ってもその人の、その人達の事をずっと覚えていれば・・・それが一番じゃないかなって思います。
確かにそれに捕らわれるのは良く無い事なんでしょうけど、だからと忘れてしまうのは淋しいですし・・」
「そう・・・だな、そうかも知れないな」
「私なんかがそんな事言うのは烏滸がましいですけどね」
「いや・・・」

ぐぃとグラスに入ってたお酒を一気に飲み干す。
少しだけ酒気を帯びた瞳が私に向いた。

「すまないな、。助かった・・」
「いいえ、どういたしまして」

私みたいな誰も喪った事の無い人間がそんな発言しても説得力なんて皆無だと知ってる。
それがきっとガーランドさんの優しさだって分かってるけど、だけど本当に少しでも軽くなったなら嬉しい、なんて。

ガイストさん・・少ししかお話出来なかったけど良い方だって事は私にも分かる。
本当は真面目で優しい・・。
だからこそあの時平然としてくれたんだと思う。
リュウに命を奪った事への罪悪感を少しでも軽くする為に。
そして・・・ガーランドさんを出来るだけ悲しまないように、最期まで笑って見せたんじゃないかって、私は思うの。



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