鳥篭の夢

Story/砂礫の向こうへ



“もうじき”だ。皆が心の片隅に置いて、その言葉を頼りにただ歩いていた。
ニーナは結局途中でヘバってしまいガーランドに抱きかかえられて進んでいる。
それでもあと少しであの灯りの元へと辿り着ける。

「漸く辿り着くって感じだねぇ」
「うん」

ポツリ、が呟いてそれにリュウが頷いた。

「灯り・・見えてるんだよね?」
「うん。あ、姉ちゃん鳥目だっけ・・大丈夫?」

問う言葉に、はへらりとまるで子供のような笑みを見せた。
普段見た事の無いその表情に小さな違和感。
疲れが出てるんだろうなとリュウは思った。
自分ですらいい加減疲れ果てて倒れそうだと言うのに女性にはツライだろう。
そう自分を納得させてリュウは歩みを進めた。
早くあの灯りの元に辿り着いて休ませて貰おう・・・と。


「じゃあ、もういいよね?」


「え?」

一瞬、何を言ってるのか誰にも理解できなかった。
直後の体が崩れ落ちて砂礫へと倒れこむ。

「姉ちゃんっ!?」
!!」

リュウとレイの声が重なった。
それでもの身体はピクリとも動かない。

「・・ぇ。ちょっと、大丈夫ー!?」
「ぷききゅー」
「まさかまで倒れるとは・・」

言って、それでもガーランドは“そうか”と思い出した。
はあくまでも飛翼族だ。特に飛翼族の女性は他種族に比べ体力も無い。
思い返せば、今まであれだけ笑顔で動けていた事の方が不思議だったのだ、と。

「ど・・如何しよう?
姉ちゃん・・・姉ちゃん、大丈夫??ねぇ・・姉ちゃん!??」

酷くうろたえるリュウの姿。
今まで元気だった、姉のように慕っている人物がいきなり倒れたのだから仕方ないだろう。
懸命にの身体を揺さぶるが反応はない。
ただ胸が浅く上下しているから死んでいない事だけは確かだった。

「ふむ・・・一旦休むとするか?
ニーナもこんな状態だ、その方が・・・」
「いや、進むぞ」

鋭い声でレイがガーランドの言葉を遮った。

「で・・でも兄ちゃん!姉ちゃんが・・・」
「そうよー!が危ないわー!?」
は俺が担ぐ。
それに、こんな所でぐだぐだしてる方が危ねぇだろ?」

言葉に、声を上げた2人は黙り込んだ。
それもそうなのだと頭で理解はしている。
だからこそ砂豚を食べ、退路を断ってまでも無理に進んでいるのだ。
それに今休んでが動ける保証は無い。
次に動けなくなるという事は即ち・・・考えた瞬間、リュウは無意識に身震いした。
留まる事は得策ではないと脳が告げる。

「・・・・うん、そうだね」
「リュウ~っ!!」
「モモさん行こう。
こんな所よりも、もっとちゃんとした所で休ませた方が良いよ」
「それはー・・そうだけどー・・・」
「そういうこった。ほら、さっさと行くぜ?」

軽々とを横抱きにするとレイは先へと歩き出した。
それにモモは不満気な声を上げたが、結局は歩き出す。
こんな場所で1人取り残されては堪ったものではないし、何よりリュウの言葉は最もだとボンヤリした頭でも理解は出来ていた。
ちらりとレイへ視線をやってモモは僅かに目を瞠る。
先程の冷静な言葉とは裏腹に焦るような表情、ただ心配している瞳。
何時だったか“アレで良い人”だとが言ってたのをモモは頭の片隅で思い出して小さく笑う。

「確かに・・の言ってた事は本当かもー」
「あ?何か言ったか、学者さん」
「んーん、何でもないわー」

小さく聞き取れないように呟いたと思ったのに、まさか聞かれてると思わなかったとモモは何度も首を横に振った。
追求されるかと思ったがレイは一度訝しむだけでそれ以上は何も言わず、また灯りへと向かって歩き出す。


───程無くして、一行は灯りの元・・・オアシスへと辿り着いた。



inserted by FC2 system