鳥篭の夢

Story/貴女が傍にいてくれたから



さっきから延々と続く心の中の世界。
ひとつひとつ灯に照らされたような路。時折、皆の心も・・・・。
皆それぞれ葛藤を胸に抱きながら此処にいる。
ニーナも、兄ちゃんも、モモさんも皆。


「黒い翼とは不吉と災厄の象徴であり、それを持って生まれる事は不吉を背負うという事───」


不意に聞こえた声。聞きなれた姉ちゃんの───
振り返れば床に座り込んだ姉ちゃんの姿があった。
悲しそうな顔をして真っ暗な闇みたいな天井を仰ぐ。

「昔はただの“御伽話”みたいなものだと思ってた。
黒い翼なんて稀だし、見た目だって良いとは言えない。
だけど家が燃やされた時、思った───これは、私が呼び込んだ災厄なんじゃないかって・・・」

吶々と今にも泣きそうな声で語る。
姉ちゃんはずっと後悔してたんだ、マクニールの屋敷に忍び込んだ事・・・。
あの時ズルスルに唆されなければ・・・浮かれて了承しなければ起きなかった事。
それは姉ちゃんの所為じゃないのに。

「ううん、違う・・・本当は分かってる。
これは己が犯した罪、過ぎた悪戯の結末でしかない。
それを黒い翼の所為にするなんて間違ってる事も・・・」

姉ちゃんはあの時からずっとそうやって抱え込んでるのかな?
アレは俺達が巻き込んでしまった事なのに。
悪くないっ!姉ちゃんは別に悪くないよ!!
・・・・そう叫んでも言葉は届かない。
と、急に姿が消えて今度は近くにある柱の影から唐突に姿を現す。
そのまま俯いて目を伏せた。

「ニーナにだって・・・結局私は言えないまま。
混乱させてしまうって分かってるし、困惑や動揺されるのは怖い。
そもそもあの子にとって“私”なんて必要無いんだから、明かす必要だって・・・。
慕ってくれるのは嬉しいけど、でも。だからこそ言い出す事なんて出来ない。
きっと、これからも明かす事は無い・・・これは、私の弱さ・・・・」

ニーナ?どうしてニーナが・・・・・?
考えているとまた姉ちゃんの姿が消える。シンと静まった世界だけが広がった。
頭の隅でニーナの事を疑問に思いながらも歩みを進めようとすると、ふわり目の前に黒い羽が1枚落ちてくる。
思ったよりも大きなソレは俺の手をすり抜けて消えていった。


「リュウが心配で、大切だから此処まで一緒に来た・・・ただ本当にそれだけだった」

姉ちゃんの姿は何処にも見えない。でも、声だけが響く。

「・・・・神様と、世界と、竜族。
気付いたら話が大きく膨らんでいて、如何すれば良いのかも分からないまま・・。
気付けばちっぽけな私をあっという間に飲み込んでしまうみたい。
そんな私にリュウが守れるの?そんなの烏滸がましい考えでしかない?
・・・・・・それすらも分からない」

姉ちゃんの葛藤。
ただ俺の事を案じて来てくれたのだと思うと嬉しい反面、巻き込んだ事を申し訳ないとも思える。
そうだ・・俺こそ、姉ちゃんを巻き込んだだけなんじゃないかな?
姉ちゃんにただ甘えて、そのまま引っ張ってきてしまっただけだ。

「でもね・・・」

ふと姉ちゃんが俺の目の前に姿を見せる。
俺を視認しているように真っ直ぐこっちを見る姿。
さっきまでとは違う強くて優しい瞳。

「守ってみせるよ。
リュウが大切だから苦しんで欲しくない。出来る事ならずっと笑っていて欲しいから。
だから私は此処まで来たし、これからも・・・せめてリュウの旅の終着点まで一緒について行く。
確かに竜族に比べたら私の力なんて本当にちっぽけで、頼りになんてならないかもしれないけどね」

苦笑しながらそっと手を伸ばす仕草。
触れられないって分かってて、無意識に手が伸びる。合わさる俺と姉ちゃんの手。
やっぱりそれは“触れる”事は出来なかったけど、それでも何だか温かいような気がした。

「リュウ。貴方は自分を信じて前へと進めば良いの。
大丈夫!貴方はとても強くなったよ。
それにもし不安なら私も傍にいる。迷ったら助けになるよ。だって私はリュウの姉ちゃんだもの!
ねぇ・・忘れないで?絶対に、この命を懸けても貴方を守ってみせるから・・・ね」

強くて優しい声音は心からの言葉。
柔らかく笑む表情は嘘偽りには見えない。そんな風に俺が小さい頃から傍にいてくれた。
その姿にどれだけ助けられてるかなんてきっと姉ちゃんは分かって無いんだろうなぁ・・なんて思う。
ゆっくりと透けて身体が消える。
気のせいなんだろうけど手の平には未だ温かさが残っているようだった。


「・・・でも、ティーポはどうだったのかな?
リュウには私もレイも一緒にいたけど、ティーポはずっと1人だったのかな?もしそうなら・・・・」


不意に聞こえた声は最後まで聞こえる事無く消えた。
でも姉ちゃんがなんて言いたかったのかなんて分かる。
だって姉ちゃんは俺達の事をいつだって考えてくれるから、きっと───


“私はティーポに何かする事が出来るのかな?”


本当に俺達は姉ちゃんに守られてるんだなぁって実感する。
確かに力は俺の方が強いんだけど・・・そうじゃない。
そんなのよりもっと、俺達の心を守ってくれたから。
だからこそ俺も姉ちゃんを守りたいし、強くなれたんだと思うんだ。



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