鳥篭の夢

Story/この広い空の下



セラピ・・・心の中の世界へとリュウを送った時、それでも意見を曲げないリュウに俺は苛立ちを感じていた。
同じ種族である俺じゃなくて、あんな自己中心的な奴等を選んで・・・って本当にそう思ってた。
確かに姉ちゃんと兄ちゃんを好きだって気持ちに変わりは無い。
でも一緒にいられないって分かってたから。
姉ちゃん達は触れれば壊れてしまう程に脆いんだって・・・そう思ってたから。だけど───

“ティーポ。だけど・・・姉ちゃん達は何時だって俺達の事を想ってくれてる!”

リュウが、そんな風にハッキリと言うから・・その想いは確かに俺も感じていたから・・・。
でも・・信じればそれは、もしかしたらミリア様を裏切る行為なんじゃないかって怖くなった。
だから姉ちゃんが俺の悪夢の世界に来たって分かった時、少しだけ安心したんだ。
これで姉ちゃんはいなくなるって・・・。
確かに胸は苦しくて。でも姉ちゃんがいなければきっとリュウも目を覚まして、ミリア様の元に一緒にいられるって・・・。


───バサリ

翼を大きく広げる姉ちゃんの姿。
紫みたいな黒い翼は鈍く陽光を反射して、それが酷く綺麗だと思った。
砂礫と鈍色の機械しかない死に絶えた大地の中で、ただ“生きている”と示しているみたいで・・・。
シーダの森にいた時よりずっと大人になった顔が俺を見て、近づいてくるその身体はとても小さくて華奢だ。
ずっと時が経ったのに、それでも変わらない柔らかな笑みを浮かべていて・・・それはまるで天使みたいで。

「如何したの?ティーポ」
「・・・いや、何でもない」

小さく首を横に振れば不思議そうな顔をされた。
でも恥かしくて流石に“綺麗になった”なんて言えない。
綺麗だから思わず見惚れてたなんて・・・・兄ちゃんも拗ねるだろうし。
あぁ、でも今なら本当に思う。
あの時、姉ちゃんが死ななくて良かった。俺の悪夢に取り殺されなくて良かった。
だからこそ、こうやって一緒にいられる。
笑顔でシーダの森の・・俺達の家に帰れるんだから・・・。

「ねぇ、姉ちゃん」
「ん?」

「ありがとう」

言えば、やっぱり姉ちゃんは不思議そうな顔をして。
それでも“どういたしまして”って返してくれた。
本当に綺麗な笑顔。
俺が小さい頃と何も変わらない。記憶にあるままの・・・優しいヒト。
リュウの言っていた“姉ちゃんが俺達の事を想ってる”っていうのは本当に間違いじゃなかったって分かる。
リュウの事を、俺の事を想って・・・ずっと生きてくれた姉ちゃん。

不意に見上げれば、エデンでは見る事の出来なかった広くて青い空。
幾つか浮かぶ雲がとてもゆっくりと動いて・・それが決して人工的なモノではないんだって教えてくれるみたいだった。

これからはミリア様の手を離れて、俺達だけで歩くんだ───


この広い空の下を



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