鳥篭の夢

Story/幸福は鎖のように



「やーん、にぃちゃん待ってぇー!!」
「ヤダよ!お前トロいもん!!」

駆け回る足音に私は小さく苦笑した。
よくもまぁ、また些細な事でこんなにも盛り上がれるものだと思う。
それは幼い頃のリュウとティーポの姿を想い起させるようで・・私としては好きなんだけど・・・。


「かぁさーん!にぃちゃんが遊んでくれないー!!」

私譲りの青紫色の瞳に涙を目一杯に溜めた娘、ミイナが駆け寄ってくる。
父親であるレイと同じ虎人なのに・・・ハーフだからかな?まだまだお兄ちゃんには敵わないみたい。

「ほら、クー。あんまり苛めないで一緒に遊んであげて?」
「えー!だってミィ、オレにもついて来れないんだぜ?
オレはミィみたいにフーレンじゃないのにさー」

クレイの背に生えた小さな翼が、まるで主張するように震えた。
私と同じ黒い翼。虎人の血が濃いのかもしれない。
事実、私よりもずっと身軽で簡単に木登り出来る姿は、背に生えた翼を忘れる程に素早くてしなやかだから・・・。
むぅっと膨れっ面になって僅かに細められた瞳は父親譲りの綺麗な青。
それにくすくすと笑ってからクレイの頭を撫でた。

「クー?それでも君もちょっと前まではリュウ兄ちゃんやティーポ兄ちゃんにくっついて回ってたでしょう?」
「そ・・そうだけど・・・。
でも今ティーポ兄ちゃんいないし、リュウ兄ちゃん帰ってこないし」
「ねーねー、またリュウにぃちゃん遊びに来てくれるかなぁ?」

私にしがみ付いてミイナが問う。
それからコンコンって扉を叩く音・・・・・ほら。噂をすれば、だね?
扉を開ければお土産にと紙袋を抱えたリュウの姿があった。

「ただいま、姉ちゃん」
「おかえり、リュウ。
・・・おかえりっていうのももう変かな?」
「そんな事無いよ。此処だって俺の家でしょ?」
「勿論だよ」

なんて言いながら急に訪問してきた弟を迎え入れる。

神様探しの旅をしてから数年。
短いような長いような・・平穏だったけど、でもあれからまた色々あった。
一番驚いたのはリュウのウインディアへの婿入りだけどね。
ニーナとリュウの結婚式は流石に出れなかったけど・・・。
きっと綺麗だったんだろうなぁなんて今でも思う。
レイとティーポ曰く“リュウのぎこちなさは面白かった”らしい。
弟が家から出るのは淋しいなんて最初はしみじみ感じてたけど・・・こうやって良く遊びに来てくれるし、実際そうでもなかったりする。

リュウの足元でミイナとクレイがじゃれ付いて、それにリュウは少しだけ困ったように苦笑していた。

「そういえば、兄ちゃんとティーポは?」
「今ちょっと狩りに出てるよ?
もうそろそろ帰ってくると思うんだけど・・」
「そっか」

他愛ない会話を交えてお茶を淹れる。
自分と遊ぶと自己主張する2人に“皆で遊ぼう?”なんて・・本当に毎度お騒がせしてます。
毎日いる訳じゃないからって遊びに来るとすぐにじゃれたがる子供達。
ニーナにも結構迷惑かけてたもんなぁ。

「だけどリュウ、ちゃんとお城で大丈夫?
敬語とか使えてる?お城の人達に迷惑かけてない?」
「・・・う、うん。大丈夫だと思う。
怒られたり嫌な顔はされてないから・・・」

何度も頷くリュウにホッと一息。
嫌な顔をされて無いなら大丈夫だね。母様達は変なところで厳しいから・・・。
“姉ちゃんが色々鍛えてくれたおかげ”なんて言われて思わず苦笑。
そうだね、流石に大分厳しく教えたもんね。

「でもリュウは物覚えが良いから教えるのは楽だったかな」
「そうかな?でもマナーの時は“今日はもう終わり”って何回言われたか分からないよ?」
「あははー、アレは私がそう教えられたから。
1日に間違えて良いのは3回までです」
「だね」

思い出して2人で苦笑。
リュウもテーブルマナーだけはちょっと梃子摺ったっけ。
まぁ、でもそれも今では良い思い出でしょう?


───ガチャリ

急に扉が開いて、狩れたんだろう獲物を担ぐティーポとレイの姿。

「姉ちゃんただいまー!・・・あ、リュウ!!
何だよ帰って来る時は言えって言っただろー?」
、ちび達、今帰った・・・お、リュウ。
如何した?ニーナと喧嘩でもして帰ってきたのか?」
「「おかえりー!」」
「2人共お帰りなさい」
「兄ちゃん、ティーポ、おかえり・・・って、別に喧嘩なんてしてないよ!!」

あわあわと慌てるリュウの姿に皆で笑う。
それからひょこりとミイナがリュウの足元から顔を出した。

「ニーナねぇちゃんは遊びに来ないのー?
ミィ、またねぇちゃんと遊びたいなぁ」
「駄目だよ、ミィ。
姉ちゃんは今お腹に赤ちゃんいるんだから!」
「でもニーナも来たがってたよ。
またミィとクーと遊びたいって言ってた」
「「ホント!!」」

2人の声が重なって、尻尾と翼がぱたぱたって動いて、嬉しそうな顔が凄くそっくりで・・思わず全員で笑った。


親が子を慈しみ育て、子は育ち何時かは1人で立ち、誰かを愛するようになって、そして子は親になる。
その幸福はそうして繰り返されていくんだろう。
まるで、途絶える事の無い鎖のように───。



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