鳥篭の夢

Story/それが一瞬でも



───バサリ

小さな物音。僅かな静寂の後、暗闇からテントへと進入する影。
青い瞳が僅かに暗闇で光る。
すぅっと細められたそれは1人の女性へとゆっくり移動して、止まった。

?」

怪訝そうな声。その青い瞳を持つ人物───レイはしゃがみこんで女性の顔を覗き込む。
すやすやと穏やかな寝息を立てているに起きる気配は微塵もない。
サラリ。その美しい金糸のような髪を撫ぜる。
僅かに癖があるのは姉妹で良く似ているとレイは思った。
といっても妹の方が少々癖が強いようだが。

「ん・・」

口の端から吐息が漏れる。
うっすらと瞳が開き、その眼がレイを捕らえた。寝惚け眼。
名を呼んだ事に反応したのか、それとも触れた事で一時的に意識が現実へと戻ってきたのだろう。
と、途端には酷く嬉しそうに柔和な笑みをレイへと向ける。

「・・レイ・・・?」

その細い腕を伸ばすと、まるで子供のようにぎゅっとレイの服の裾を掴んだ。
とろんとまだ眠たげな瞳。
倒した身体はそのままに、それでも今の状況を整理するように視線を巡らせる。

「あれ・・私、寝てた?」
「あぁ」

簡潔に答えるレイには僅かに苦笑した。
つい先程ガーランドとリュウに見張りの交代を頼み、テントに入って横になったばかりだったのだ。
まさかそんなに早く寝入ってしまっていたとは彼女自身思ってもいなかったのだろう。

「あはは、ちょっと眠かったのかな?」

身じろぎ身体を起こそうとするを、レイのその大きな手が制止した。

「そのまま寝とけ。
どうせ明日も早いんだしな」
「ん、そうだね」

言葉に応じてはそのまま身体を倒し、レイも隣に横になる。


「・・・あのね」
「あ?」

不意に言葉を紡ぐにレイは視線だけを向けた。柔らかい笑顔。
まるで天使のようだとすら思える美しい笑み。
不意打ちのようなソレにレイは一瞬全神経を奪われる。

「起きた時にレイが傍にいてくれてホッとした」
「・・・は?何だそりゃ」

くすくすと笑いながらはそっとレイの手に自身のを重ねた。

「だって、1人は淋しいじゃない?たとえ───」

言葉の続きはない。代わりにすやすやと寝息が聞こえてくる。
本当に疲労が溜まっていたのだろう。
レイは再度に手を伸ばしかけて、止めた。また起こしてしまうのもしのびない。
そのままテントの天井を見上げゆっくりと瞳を閉じる。
傍にある愛しい者の吐息と体温。
それだけで安堵できる感覚は未だに慣れないとレイは思う。
虎人は縄張り意識が強く、どうしても近くに人がいると満足に眠れ無い事が多い。
現に今も2人きりではなく他にも寝ている者達はいる。
それでも勝手にトロリと意識が沈む感覚。
傍で眠るを心から信頼しているからだろうか?
そんな事を考えながらゆるりと瞼を閉じた。



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