鳥篭の夢

Story/只今練習中



───カチャ

ナイフが少しだけお皿に擦れた音・・・・・・しまった。今、何回目だっけ?
考えて恐る恐る姉ちゃんに視線を向ける。
にっこりと綺麗な笑顔に俺も釣られてへらりと笑った。

「リュウ。今日は此処までにしようか」

言葉と同時に立ち上がるとそのままキッチンに消えていく。
どうやら今日はもう終わりみたいだ。内心で深く息を吐いた。
緊張の糸が一気に緩んで、椅子にずるずる凭れ掛かりながら姉ちゃんを見る。
別段怒ってるようには見えない・・・けど、何だかあの笑顔はちょっと怖い。

「お。リュウ、今日も駄目だったんだな」
「ティーポ・・・うん」

ティーポは料理の残っているお皿を覗き込んで楽しそうに笑った。
それからぽんぽんって俺の頭を軽くたたく。

「ま、大丈夫だって。
姉ちゃんは何だかんだで投げ出したりしないだろうし」
「うん。でも回数制限はあるけど」

「それはそうよ。
ずーっと“違う”って言われながら食事をするのは嫌でしょう?
それに私もそうやって教えられてきたから・・・ね」

くすくす笑いながら姉ちゃんが来る。
さっきとは違う柔らかい笑顔。それにちょっとだけ俺もホッとした。
姉ちゃんはこっちの顔の方が好きだから。
柔らかい小さな手が俺の頭をそっと撫でる。

「そんなに慌てなくても良いのよ、リュウ。
まだ時間はあるんだし、じっくりでも確実に身に着けていけば良いんだから」
「でもまだ全然上手く使えないし、このままで本当に大丈夫なのかな?」

つい、ため息。本当にこのままの状態でウインディアに行けるのかな?俺。
もし行けたとしてもこんなので大丈夫なのか心配で仕方がない。

「お。今日ののスパルタ練習は終わりかい?」
「スパルタって・・私はそんなつもりはないんだけどね」

2階から降りてきた兄ちゃんに姉ちゃんが苦笑。

「全く・・そんなマナーがどうとかお行儀がどうとか、王族ってのは面倒で仕方ねぇよな」
「こらこら、そんな事言わないの。
そんな事言ったらレイはちょっとお行儀悪すぎるんだから!」
「兄ちゃん、敬語も使えないもんね」
「うっせぇ。つか、俺は必要ねぇだろ」

ぷいってそっぽ向く兄ちゃんの姿に思わず苦笑い。
でも俺も敬語は得意じゃない。
ティーポは凄いって思う、純粋に。だって敬語も使えるし、マナーだって俺より出来る。
女神の元にいたからだとは言ってたけど、でもやっぱり凄い。
俺もせめてどっちか自信がもてる位には出来れば良いのに・・・。

「リュウ?」

ふと姉ちゃんが俺を見る。不思議そうな顔。
それからまた俺の頭を撫でた。さっきよりももっともっと優しく。

「大丈夫だからね。ちょっとずつ上手になってきてるから、自信持って!」

綺麗な笑顔。そう言われると何だか出来る気がして、だから俺も笑って返した。
何時だって姉ちゃんは俺に自信をくれるって思う。
小さい頃も、旅をしてる時も、ずっと・・・。

「うん。ありがとう姉ちゃん」


だから、俺はまた頑張ろうって思えるんだ。



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