Story/大好きな人
夢を見た。わたしが、とてもとても小さかった頃の夢。
自由に動かない身体。
だけど守られているという充足感があるから恐怖は無い。
「ニーナ、わたしがねえさまですよ」
幼い声が、わたしに降り注ぐ。
とても優しい声。愛してくれてるという声音。
それが嬉しくて、ただ嬉しくて笑えば同じように笑い声。
「かあさま!今、ニーナがわらいました!」
「ええ。が大好きだから笑顔を見せてくれたのですよ」
「わぁ、うれしい・・わたしも大好きですよ、ニーナ」
お母様と共に笑う声。幸せな音。
ずっとずっと聞いていたくて、ずっとずっと傍にあるのだと信じて。
そして───。
「・・・ん」
ぼんやりと目が覚める。城とは違う木造の天井。此処は・・?
寝ぼけた頭で辺りを見渡して、そういえばシーダの森に遊びに来てたんだと思い出す。
階下へと降りれば既に目覚めて朝食の準備をしているさんの姿があった。
「おはよう、ニーナ」
「おはようございます、さん」
「すぐに朝食の準備が出来るから待っててね」
「あ、はい」
トントンと規則的な音。くつくつと煮込まれる音。美味しそうな匂いが辺りに漂う。
とにかくと近くの食卓に座ってさんの後姿を見た。
動く度に揺れる翼は───初めて見た時は確かに驚いたけど、深い紫色でとても綺麗。
「さん」
不意に口を突いて出るように名前を呼べば、さんは手を止めてわたしへと視線を向ける。
「どうしたの?ニーナ」
それは自分の中で作り上げた、自分勝手な記憶かもしれない。
だけど何だか嬉しくて。それを共有したくて。わたしはそれを口にする。
「わたし、夢を見ました。
まだ動けないような赤ちゃんの頃の。
お母様がわたしを抱っこしていて、傍には・・・・」
それが真実なのだとしたら本当に幸福な───。
「傍にはさんが・・・お姉様がいました」
本当に幸福な、夢。
「そう」
にっこりとさんは綺麗な笑みを見せてくれる。
「・・・小さい頃、まだウインディアにいた頃はね。時間があればすぐに貴女の傍にいたの。
小さな小さなニーナが本当に可愛くて、愛しくて、大好きで仕様がなくて・・・。
やれ私の方を見てくれた、私に笑いかけてくれた、なんて母様に逐一報告していたものです」
くすくすと笑いながら、まるで昔を懐かしむような遠い過去に思いを馳せる瞳。
あぁ、夢は夢じゃなかったんだって。
私が見たのは確かに夢だけど、きっと似たような現実があったんだって。
そんな事実がわたしを幸福な気持ちに導いてくれる。
不思議な高揚感。だけどそれは嫌なものじゃない。
と、不意に何かに気付いたようにわたしへと視線を向ける。
「あ。勿論、今のニーナも大好きよ」
足された言葉。それが嬉しくて仕方なくてどうしようもなくて顔が緩んでしまう。
わたし達が姉妹になったのは本当に最近だけど、それでも、それだからこそ溢れる程の愛がある。
今まで共にいられなかったからこその。これからもずっと傍にはいられないけれど。
だからこそ愛しくて、だからこそ大切にしたい。そんな人。
「わたしも大好きです、お姉様!」
これからも、ずっとずっと・・・。