鳥篭の夢

Story/研究の合間の



「んー・・・なかなか上手くはいかないわね~」

ふー。と、モモにしては珍しい溜息。
お茶を淹れて出せば“ありがとう~”と疲れの滲む笑顔を見せてくれる。

「やっぱり大変なの?研究」
「そうねー。そもそも賢樹自体が少ないからー」
「草の人がいたっていうのも大昔の記録だものね」

私も実際には見た事ないしねぇ。

「そうなのー!現在存在している賢樹ももう何百年・・・ううん、何千年前からあるか分からないものー。
私、もしかしたら賢樹そのものが今いる分だけで滅びる運命にあるのかな?って思ってたのよね。
だけど女神に会った時に、喋ってたでしょー?ペコロス。
もしかしたらプラント研究に使った賢樹と作物との変異で草の人になる可能性があるのかも・・・。
ううん、もしかしたら草の人に近い存在なのかも!って、考えた所までは良いんだけどー」

“今は喋ってくれないし、分からないのよー”とモモはお手上げだと両手を上げた。

「本来、草の人は喋れるし、周囲とのコミュニケーションによって得る知識もあっただろうし。
・・・・・まだまだ子供だから言葉を覚えてない、とか?」
「そうなのかしらー?あ、でも可能性はあるわよねー。
あの時、女神はペコロスの事を“賢樹”って呼んでいたし・・・。
と、考えるとあの時喋っていたのはペコロスじゃなくて“ペコロスの中に残っていた賢樹の部分”って事かしらー?」
「あー・・・そうかもしれないよね」

あまり専門知識は無いから絶対とは言えないけど。
でもペコロスが喋った時、私もそんな感じなのかな?って思ったっけ。

「そういえば調べた中にもあったわー。
草の人は元々長命な種族で、100年生きてても人間で言えば10代らしいって」
「そうそう、それで知識を蓄えるんだよね。
草の人は知識の追求に一生を捧ぎ、老いて賢樹になった後は新たな草の人に知識を継ぐ・・・だったっけ。
老いて賢樹になるのがそもそも何年、何百年程度なのかも分からないけど。
もっと専門的な人達が残した書物なら詳しい事も書いてあるのかも・・・」
「なかなか専門的に調べてた人っていないのよねー。
あ、。お茶のお代わり貰えるかしらー?」

“美味しいわ~”なんてニコニコ笑顔でカップを差し出されて、そこに継ぎ足す。
美味しいって言われるのは嬉しいし、喋っていると咽喉も渇くしね。
自分の分も継ぎ足して、少し冷めたそのお茶に口をつける。
む・・やっぱり香りがちょっと飛んじゃうかな。

「でも、機械以外でモモが興味を持つのは珍しいよね。
やっぱりペコロスの事だから?」

前から気に掛けてたよね?

「そうねー。プラントから生まれたっていうのもあるけどー・・・。
不思議じゃない?だって作物を育てる為にゴースト鉱を使った施設で変異植物が生まれて。
更にその変異植物から、意思のある生き物が生まれたのよー?
どんな作用があったのか。何が起こったのか。どう成長するのか。
気になる事だらけだわー」
「成る程」
「・・・・それに、1人じゃ寂しいでしょ~?
折角だからペコロスにも同じようなお友達がいれば良いのにって思ったのよー」

ふわりと優しく微笑むモモに、私も思わず笑みが浮かぶ。

「そうだね。一緒にお昼寝する相手が出来れば嬉しいかも」
「でしょー?もそう思うでしょ!
この森の近くの賢樹は切り株だけど・・そこ、好きみたいなのよね。
やっぱり賢樹に何かあるんじゃないかとは思うんだけどー」

賢樹・・・かぁ。そういえばドラグニールの壁画にも草の人みたいな種族が描かれてなかったっけ?
飛翼族の方々ばっかり気を取られてたから気のせいかもしれないけど。
何冊かお借りした書物も、持ってきたのは魔法関係だったけど他にも色々あったと思う。

「今度、ドラグニールにも行ってみる?
昔の書物・・もしかしたら何かあるかもしれないし」
「そうねー。もしかしたらあっちにも何かあるかもしれないわ。
砂漠になる前は賢樹もいたかもしれないわよねー」

ぽむ。と、手を叩きながらモモが表情を明るくした。

「ついつい篭って研究とかしちゃうけど、やっぱり誰かとお喋りするのは良いわねー。
頭の中が整理されるし、って何かと意見をくれるから助かるわー」
「そう?あんまり大した事は言えないけど」
「良いのよー。私だって物理以外はあんまり得意じゃないもの。
知識はこれから蓄えて行けば良いのよー」

“時間はまだまだあるんだからー”なんて笑うモモが相変わらずだなぁ、なんて。
楽観的で、だけど真っ直ぐ進んでいく姿に何時だって助けられる。

「じゃー、早速行くわよー!」
「って!ちょっと流石に今からだと遅くなるから!!」
「あら、そうー?」
「そう?じゃなくて、もうお昼はとっくに過ぎてるからね?
私だってそろそろ夕飯の支度とかあるんだから・・・」

レイやティーポだってもうじき帰ってくるし。
流石に何も言わずにもぬけの殻だったら怒られるし心配されるし。
なんやかんやウインディアまで話がいって大騒ぎになりそう。

「それって、も一緒に来てくれるのよねー?」

嬉しそうな顔。それに僅かに苦笑して返す。

「明日ならね。本を探す位なら手伝えると思うし」

流石に研究は無理だからね?
そう言えば、モモも“勿論よー”と笑ってくれた。



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