鳥篭の夢

Story/花冠



「らー、ら・・・ららら・・・」

歌。

旋律だけの、詩の無い歌。

ああ、そうだ。
前にも歌ってたっけな。


───ねぇ、レイ!
   見て見て、きれいでしょう?

歌が途切れて、目の前に差し出されたソレ。
握られていたのは色鮮やかな花冠。
“初めて作った”のだと続いた言葉に、当時の俺は心底その意味が理解できなかった。

───なんで、そんなもん作るんだよ。
   ハラの足しにもなんねぇし。
───・・・・む。おなかの足しにならなくても、心はゆたかになるのよ?
   それにお花や植物って季節のうつりかわりを教えてくれるし。
   本当は、きれいだからそのまま咲きほこっている方が良いとはおもうけれど。
───あ?じゃあ何で・・・
───作ってみたかったの。
   ずっと、ずっとむかしにね、作りかただけは本で読んだから。

ただ僅かにだが困ったように眉尻を下げるその顔が。
花冠を見ているようでもっと遠くを見ているようなその目線が・・・。
遠い昔。俺と出会う前。きっと、そこにいただろう大切に思う誰か。
当たり前だが、それが俺じゃない事実。
それとアイツにこんな顔をさせたという現実が、ただ面白くなくて肩を竦めた。

───・・・・・愉快だねぇ。
   それならがかぶっとけ。俺よりよっぽど・・・。

言いかけて、止まる。
“似合ってる”なんていう言葉は、似合わない。
俺見たいな奴が言う言葉じゃねぇ。
ま。それでもには全部お見通しだったみたいだったが。

───ありがとう、レイ。

その笑顔が、視線が、自分に向かっている。
ああ、ただそれだけで・・・・───。


「―・───・・レイ?寝てるの?」
「っ!?」

まどろんでいた意識が、一気に覚醒する。
マジで寝てた。こんな所で、俺が?考えて、視線だけを巡らせて納得する。
と2人だけの空間。
辺りに害がありそうな獣の気配もねぇしな。
そりゃあ油断だってするってもんだろ。

「レイ?」

ふわりと漂う花の匂い。
その手の中にあるのは、作りかけの花冠・・・か?

「何だ?それ」
「ん?花冠」
「んなのは見りゃ分かるっての」

言葉を返せば、くすくすと笑う声。

「近くに沢山咲いてたから、摘んできたの。
凄く良い匂いがするなぁって思って」

甘い匂い。ったく、それのせいか?あんな夢見たのは。

「それに花冠のままドライフラワーにしたら、可愛いと思って。
後でポプリにしたり用途も広がるし。
前みたいに無闇に枯らしたりしないんだから!」

そういや前に作った時はそのまま枯らしちまったっけか。

「それに、このお花には“幸福”って花言葉があるから。
幸福が続きますように・・・なんてね」

“ちょっとした願掛けみたいなものかな?”なんて続く言葉。

「ふーん、良いんじゃねぇの?」

らしくて。俺じゃそんな事に気は回んねぇし、柄でもねぇ。
そこまで言葉は続けなかったが、本人には相変わらずお見通しなんだろう。

「ありがとう、レイ」

あの時と同じような笑顔と言葉。

「もし完成したら今度こそレイの頭に乗せてあげるね?」
「だから俺に被らせるなっての」

くすくすと笑う声。
それからはまた詩の無い歌を歌いながら、花冠を編みこむ。
不意に、お互い当然のようにあの日の記憶を思い出しながら話してた事実に今更気付く。
それが凄く嬉しくて愛しいなんて感情に腕が伸びかけて、止まった。
今花ごとぐちゃぐちゃに抱きしめたら完全にオカンムリだ。
・・・・ったく。後で覚えてろよ?



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