Story/“楽園”に住まう子
“楽園”は何時だって俺に優しくて。
“楽園”は何時だって俺を受け入れて。
“楽園”は───。
燃え盛る火の音がする。
馬の嘶き。嘲笑うような含みのある声。
むせ返るような鉄錆の臭い。
流れる川の冷たさよりも、変わっていた己の姿に血の気が引いた。
竜族で在る事。
犠牲だらけの道程で知った真実。
独りぼっちで歩き続けた先で、自分が普通ではないんだと理解した。
竜族でないのなら・・・・きっと皆、死んでいる。
大好きな兄ちゃんも、姉ちゃんも・・・・。
ミリア様に出会って、漸くリュウが俺と同じ竜族だと知れた。
だからきっとリュウは生きてる。
そしてきっとリュウも苦しんでる。
もしかしたら俺のように多くの犠牲を出して、進んでくる。
だってリュウは俺と同じ竜族だから。
俺が助けなくちゃ!
だって俺は・・・俺だってリュウの兄ちゃんなんだから!!
ふと目が覚める。
うとうととまどろんでいた意識が浮上する。
ああ、寝てたんだっけ?俺。
“楽園”・・・エデンと称されるこの場所にいるのは俺1人だけ。
ミリア様は優しいけど、お忙しい方だから常に居てくれる訳じゃない。
姉ちゃんなら・・・・。
考えて、止めた。
きっと俺の所為で死んでしまっただろうひとの事を考えるのはツライ。
何時だって笑ってた。
何時だって、俺達の事を考えてくれていた。
何時も優しくて、たまにちょっぴり怖くて、だけど大好きな人。
大好きだった人。
───バサ・・・ッ
羽音。“楽園”に存在する鳥が一羽大きく飛翔する。
翼の先が紫に近い色で、少しだけ姉ちゃんを思い出させた。
それをボンヤリと目で追って───
「ぁ・・駄目だ、そっちは・・・!」
手を伸ばしても、もう遅い。
飛ぶ鳥が、限界に気付かずに壁に衝突し落ちていく姿が・・・・。
そのまま動かなくなる姿が、何処か姉ちゃんを彷彿とさせる。
死んだ姿を見た訳じゃないのに。
何時でもあの笑顔を、あの声を思い出せるのに。
本当に死んじゃったの?姉ちゃん。
なんて考えが過ぎって首を横に振る。
燃えた家の残骸には何も無かった。家具を含めて、全て炭になってた。
そんな中に姉ちゃんがいて助かる筈は無い。
そもそもあいつ等が言ってたじゃないか。
“家にいた女は先に始末した”って・・・・だから・・・・・。
無意識に強く拳を握り締める。
唇を噛み締めてたのか、口の中に血の味が広がった。
いけない。平静を努めないと・・・。
竜族の血を目覚めさせる訳にはいかないから。
一度大きく息を吐いて、木にもたれかかる。
リュウ・・・・早く此処に来い。
そして、俺と一緒に暮らそう?
兄ちゃんと姉ちゃんはいなくても。
シーダの森の時みたいじゃなくても。
それでもきっと俺達なら楽しく暮らせるだろ?
“楽園”は───
ひとりぼっちは、さみしいから。