鳥篭の夢

Story/それは不安になる程の



『俺・・・・』


それは紅い世界に響くか細い声。


『姉ちゃん・・・俺、昔みたいに兄ちゃんとリュウと泥棒で良かったのに・・・。
4人で一緒にいられたらそれで・・・・なのに・・』


それは理想と現実の相違。


『どうしてかな?何でこんな事になっちゃったんだろう?
兄ちゃん達を、誰も傷付けたくなくて此処にいる筈なのに、俺、どうして・・・・??』


それは涙と後悔の言葉。遅すぎる程の・・・・。


『姉ちゃん、やっぱりダメなんだよ。竜族は危険なんだ。だから───』



「───っ!!!?」

声にならない悲鳴を上げて、私は唐突に“目が覚めた”。
夢・・・?そう、これは夢だ。だって皆生きているんだから・・・そう思って深く息を吐く。
隣を見て穏やかな寝息を立てるティーポとリュウを確認してホッと安堵の感情が広がった。

“良かった”
心からそんな単語が頭を過ぎる。

それにしても、なんて嫌な夢だったんだろう。
あの彼の地と呼ばれる不毛の大地。そこでティーポと再会した時の夢。
でもあれは話し合いで解決した現実とは違う展開だった。リュウとティーポの争いを止める事が出来なかった。
2人の争いをただ呆然と見つめる事しか出来なくて、それを止めようとしたレイも、そしてリュウも・・・・・。

思い出して身震いする。言葉にならない不安と恐怖。
むせ返るような鮮血の臭い、紅で染め上げられた世界。それは唯の夢。分かっているのに・・・。
だけど・・・もしあの時ティーポを止められなかったら“ソレ”は起こったのかもしれない。


「大丈夫か?
「あ、レイ・・」

ふとかけられた声に視線を向ければ寝ていたと思っていたレイが私を見ていた。
もしかして起こしてしまったんだろうか?そう不安に思っているとレイの大きな手が私を撫でる。温かい手。

「魘されてたみてぇだが?」
「ぁ、うん・・そうだね。ちょっと嫌な夢を見てたの。でも大丈夫」

それは決して現実で起こらないから。
そう言ったらレイは少しだけ不思議そうな顔をして、だけど何も聞かずに“そうか”とだけ返した。
レイは生きている。リュウだって・・・それにティーポも笑って此処にいてくれている。

「きっと今が幸せすぎるのかも・・・」
「あ?」
「全部が良い方向に進んで。本当に不思議な位で・・・。
だから“もしかしたら本当はこうなってたかも”なんて嫌な夢を見るのかも、ね」

リュウと再会出来た事も、レイがあの時無事だった事も、ティーポと争わずに済んだ事も。
全て私にとって良い結果に終わったから。だから逆に不安になる。
これが“夢”なんじゃないかって・・・本当はさっきの夢が“現実”なんじゃないかって。
その言葉に何かを察したのかもしれない。レイは何度か瞬いてから口元を緩めた。

「そうかも、な。
ま。夢は夢なんだから気にするこったねぇだろ?現実は此処にあるんだからな」
「うん。ありがとうレイ」

お互いに笑って・・・・・さっきまであった筈の言葉にならない不安が消える。
温かい手が、これが現実だと教えてくれる。もう何も怖くなんてない。そうだ、あれは唯の夢なんだから。


「んん・・・ねぇちゃん?どぉしたの??」
「んぅー・・・?」

寝惚けた紅い瞳が私を見つめる。隣の青い瞳も眠たそうに私へ視線を向けた。
ボンヤリした2人の眼は小さな頃と全然変わらないままで、それに思わず笑みが漏れる。

「何でもないの。ごめんね、起こしちゃった?」
「んー・・・だいじょぶ」
「おれも、おやすみー・・・ねぇちゃ・・」

出来るだけ優しくそう言えば、2人はそのままベッドへと身体を沈めた。
その様子が何だか可笑しくて。それでいてとても幸せで。レイと一度だけ顔を合わせて出来るだけ声を殺して笑った。

幸福な感情と共に確信する。
やはりアレは不安になる程の幸福が見せた唯の悪夢なのだと・・・。



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5000HIT記念・青年期編、完。
拙い作品ではありますが、最大の感謝を込めて。
2009.01.21.凍架



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