鳥篭の夢

Story/幸福の感情



ふわふわと夢心地の感情が私の心を占有する。

何か特別楽しい事があった訳じゃない。
何か特別感動する事があった訳でもない。
ただ、此処に皆が──家族がいるという幸福が。
元気でいてくれているという他愛ない事実が。
それだけの、ううん、それはこの上ない幸せなのだから。


「ただいま、姉ちゃん!
俺、すっげーでっかい魚釣ったよ!!」

見て見てと静寂を打ち壊しながら帰宅したティーポが魚を見せてくれる。
慌てて来たんだろう両肩で息をしながら、それでもまるで子供の頃と変わらない笑顔に私も顔が緩んだ。

「凄い食べ応えがありそうね、それ」
「へへへー。
でもリュウはグミフィッシュばーっか釣り上げてんだぜ」
「ティーポっ!!
ち、ちょっと今日は調子が悪かっただけだってば!!」

“それにグミフィッシュだけじゃないし・・”と顔を真っ赤にして後から追い付いた下の弟が反論。
やっぱり昔と変わらないようなやり取りに、思わずくすくすと笑いが零れた。
それをみたティーポとリュウも、互いに顔を見合わせて笑う。

「大丈夫よ。グミフィッシュも含めて全部今晩のおかずに変身させるから」
「「さっすが姉ちゃん!」」

二人の感嘆の声が重なって、それから悪戯そうな笑顔になった。

「でも次はグミフィッシュの刺身じゃ無いのが良いかな」
「あれは水みたいで食べてる気がしなかったもんなぁ。
兄ちゃんも文句言うくらいだし、姉ちゃんにしては珍しく失敗作だったよね」
「あはは。分かってるから大丈夫。あれは反省してます。
次はもっと別の調理法を試してみるから楽しみにしてて」
「「うん!!」」

眩しい位の二人の笑顔。
それが、長い空白の向こうにある幼い笑顔と一瞬重なった。
ああ、本当に変わらない。純粋で優しい弟達。
一度は別れた彼等とこうしてまた一緒にいられるのは本当に奇跡で。
だからこそ今、私はこんなにも笑顔でいられるんだろう。


ふわふわと柔らかい夢心地の感情。
それは余りの幸福に溢れた日常が在る故に。



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