鳥篭の夢

序章/はじまりのきおく



最初の記憶は、見知らぬ場所と見知らぬ人々。

何も分からないアタシの事なんて放っておいて、周りのヒト達はどよめきながら何事かと言葉を交し合っていた。
『ショウカンシッパイ』『ショブンスベキカ』『フヒツヨウ』
ただ、色んな単語が飛び交う中で酷く退屈だった。
時折出てくる『ノバセリゾク』という単語から、多分アタシはノバセリゾクなんだろう・・でも、詳しくは分からない。
ただ放っとかれて如何して良いか分からなくてぐるりと辺りを見渡して──ある一点で止まった。
白に近い銀髪と金色の瞳。耳の後ろから伸びるような紅い角。圧倒するような雰囲気・・・綺麗なヒトだと思った。

“フォウル”

そう名乗った竜のヒト──この世界では神様とされる方と、アタシはその日から交流するようになった。


次の記憶は、喧騒と静寂と・・同時に傷とは違った痛み。

それはアタシの内側に入り込もうとする異質の力。
苦しくて、呼吸すら出来なくて・・・アタシは“別のモノ”に成った。
栗色だったアタシの瞳が彼と同じ金色になって、胸の辺りにヒトじゃなくなった事を証明する紅い宝石があって・・・。

・・すまない』

初めて謝るフォウルの姿に驚いた。でもそんな事無い、本当に悪いのはアタシ。心配させたのはアタシ。
あの時、フォウルが危ないと思って・・今なら不要な心配だと分かるけどその時は分からなくて無我夢中だったの。
ほらアタシ元々頭足りて無いから。後ろから彼に斬りかかろうとする敵兵との間に飛び出したアタシに、フォウルが瞠目。

───衝撃

気付いたら抱き締められてた。
さっきまで取り囲まれていたのに人間の形状をしたモノは既に存在していなくて。
アタシの体中の血液が流れたと思ってたのに見てもそんな傷は無くて、さっきまでの苦しい感覚が漸く消えて・・。
あの時の、悲しそうなフォウルの瞳をアタシは今も未だ覚えてる。

ヒトを捨てた日──アタシは“ガーディアン”と呼ばれる、フォウルと共に在り彼を護る存在に成った。



「でも友達だよね?アタシ達」
「私はそう思った事など一度たりともないが?」
「えー・・嘘吐き!あの時助けてくれたじゃん!!」
「それは・・・」

黙り込むフォウルにくすくす笑って“ほら、やっぱり友達だよ”って笑う。
アタシはガーディアンだから本当は主従関係なんだけど・・。
でも敬語を使おうとすれば顔を顰めるし、恭しく臣下の礼をとれば酷く嫌がられた。だから結局そんな風には思えないんだよね。
まぁ敬語とかは勝手に出てくる時もあるけど・・・でもちょっとだし、それ位はご愛嬌でしょ?

それから長かった戦争が一旦終わって、フォウルは“フォウ帝国”を築いて初代皇帝となった。ツマラナイ日々が暫く過ぎていって・・。
で、フォウル曰く『半身が目覚めて無いから力が不完全』らしくてその半身様が目覚めるまでの永い間、アタシ達は眠りに付く事にした。
ある意味ガーディアン仲間のオンクーをお供に、アーターを城の守護に寝所へと入る。
・・・・ヒト達に“数百年の後に神は目覚めるだろう”と予言を残して。


ガーディアンの眠りは石だ。オンクーは寝所の入り口を、アタシはフォウルの傍で石となって守護をする。
フォウルも力を温存する為に早々に深い眠りに付いた。何百年と先になるだろう彼の半身様が目覚める時を待ちながら・・。

でもアタシは眠りについている間ずっと考えていた。
“目覚めぬ半身”“力を分けてくれたフォウル”それはつまり、彼の力はほとんど残って無いって事。
それは酷く申し訳なくて、でも同時に、だからこそ“フォウルを護らなくちゃ”ってそんな事を考えた。
彼に護られ、繋ぎとめられた生命。決して無為に散らすんじゃない。
・・・だけどガーディアンとして与えられた使命と力を、生命を賭してフォウルを守り抜きたい。


ただ、そんな事をずっと───



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