鳥篭の夢

あたたかなおもい



目を開けると、先にあったのは仰々しいと言えなくも無い大掛かりな装置。
煙が立ち込めてて中央にいた幾人かがアタシと何かを見比べてひそひそと話す声。
初めて見る場所。初めて見る人。

「召喚は失敗したのか?」
「完全ではなかったようだ。野馳族では・・」
「なら、処分すべきだろうか?」
「えぇ。アレは不必要でしょう」

ごちゃごちゃと何かを言っている。言葉の意味は良く分からない。
“ノバセリゾク”って何だろう?アタシの事かな?でも誰も話しかけようともしないから分からない。
話しかける気も何だか起きなかった。兎に角、誰もがアタシを放置したままで酷く退屈だと思った。
如何しようかな?如何したら良いのかな?考えながら視線をぐるりと移動させて、止まる。

「・・・ぅゎ・・・」

小さく感嘆の吐息が漏れた。酷く綺麗な人がいる。
ほとんど真っ白に近い銀色の髪の毛。月の様な金色の瞳。
先が少しだけ尖った耳の後ろらへんからは紅い角みたいなのが伸びていた。
面白い、不思議・・・・だけど、とても綺麗。
さっきのアタシみたいに酷く退屈そうな視線を中央の人達に向けていて、その足を一歩踏み出せば他の人達は跪く。
何かを話してて・・それが何だったのか分からないけど、それからアタシに気付いて近づいてきた。
ぇ・・・・・わ、わ!!こっち来た!!?



「・・・?」

何かの言葉?分からなくて同じように繰り返したら、綺麗な人は眉根を寄せた。な・・なんだろう?

「お前の名、なのだろう?」
「アタシ・・?」

分からない。知らない。記憶に無い。
ぽかぁんって本当にバカみたいな顔してたんだろうな。綺麗な人が1つため息。

「うつろうもの・・その哀れな犠牲、か」

そんなの分からない。それに“うつろうもの”って何だろう?
でも別に訊こうとは思わなかった。
だってアタシにとってはそんな事は如何だって良かったから。正直、興味も無かった。

「んー・・・と、そんな面白くない事如何だって良いよ。
えっと・・アタシがって名前なんでしょ?そしたら貴方の名前はなぁに?」

驚いたような顔だった。如何してそんな顔するのかも分からなかった。
だって名前が分からないと呼べないでしょ?そう言えばちょっとだけ呆れた顔をされた。
でも、それから綺麗な人は僅かに瞳を伏せて口を開く。

「フォウル、だ」
「そっか、フォウル。よく分かんないけどこれからよろしく?」

疑問系。だって分かんないし。
アタシが誰でフォウルが何者で、此処が何処で、どうなるかとか何にも。
でもまぁ目の前に人がいて交流してくれたから・・・一応“よろしく”で間違いないと思うんだ?



それから、アタシがフォウルと出会ってから数ヶ月。とにかく色んな事を教えて貰った。
一番驚いたのはフォウルは実は神様で、長く続いた東と西との戦争を終わらせる為に此処に呼び出されたんだって事かな。
後は・・・ぶっちゃけ如何でも良いやって思った。今までの歴史とか。アタシ頭弱いからあんまり理解できないし。

「何だか大変なんだねー?フォウルも」

岩陰に隠れながらポツリ呟く。
ちらりと覗けば爆ぜるような力が近くに落ちてビックリして座り込んだ。

「あまり容易に顔を出すと死ぬぞ」
「はぁーい」

最近は少しでも役に立ちたくて槍術とかも始めてみたけど、実戦にはまだ不向きだからって待機。
身体を動かすのは何だか楽しくて・・・だから周りの人達も色々教えてくれた。接してみれば皆良い人達。
ただ何故かフォウルが一緒にいると皆怯えた顔するんだよね。変なの、あんなに優しいのに・・・。

「フォウルー、終わったー?」

遠くに呼びかけるようにしてフォウルの方を覗き込めば、さっきまでいた敵側の人はいなくなってた。おぉ素早い!
・・・で、フォウルは?って更に視線を移動させると平然とした姿。汗1つかいてるようにも見えない。凄いなぁー。
周囲に敵兵がいない事を確認してから近づくと、怪訝そうなフォウルの瞳がアタシに向く。

「何故私に構う?」
「・・・え、一緒にいると邪魔?」
「必要とは云い難いな」
「えー!折角お友達なんだから一緒にいようよー」

深くため息。“戦場だと分かってるのか?”って・・一応分かってるつもりではいるんだよ?
でも・・1人は淋しいんだもん。敵が来たらさっきみたいに隠れるから。戦闘の邪魔はしないから良いでしょ?
食い下がるアタシにもう1つため息。

「・・・・・好きにしろ」
「やった!!」

何だかんだで一緒にいる事を許してくれる。友達って言っても嫌がらないし・・・あ、聞かないフリしてるだけかもしれないけど。
でも邪険にしないし・・・アタシが此処に来てから、フォウルと共に過ごす時間は長いと思う。大抵は一緒にいる。

アタシが笑う。フォウルはため息。でも一緒にいるシアワセ。
それはまるで記憶にすら残っていない家族のような──きっと、そんなあたたかさ。



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