鳥篭の夢

ひとならざるもの



アタシは基本的に考え無しな所がある。それは自分でも分かってる。
ずっと修練して、槍術だってそこそこ上達して最近は戦場に出るようになった。勿論、それでケガが一番多いのはアタシ。
治癒魔法をかけて貰いながら“ごめん”って笑うのはもう日常茶飯事。それでも誰も咎めなかった。
そう言えば誰かが『が笑ってると元気になる』って言ってたっけ・・・・理由は分からないけど、ちょっと嬉しい。

戦場でもやっぱりフォウルの近くにいる事が多い。って言っても、大抵はフォウルが全部片付けちゃうんだけどね。
近くの雑兵を倒しながら、圧倒的な力を見せるフォウルの竜を見てため息。フォウルと同じで、あの子も凄く綺麗だと思う。

あれが『理』──神様

そう思えば身震いすらした。いや、アタシ馬鹿だけど流石にそれ位の感受性は持ち合わせてるよ?
って言うか馬鹿だからその分感受性が強いのかもしれない。
いやいや、馬鹿だけど馬鹿だって言うのは失礼で・・あぁ、もう良いや。
何だか自分の思考にツッコミいれるのがバカらしく思えてきた。それより・・音が止んだからもう終わったのかな?


「フォウル、これで全部片付い──」

近付きかけて言葉が止まる。フォウルの後ろ、一目で分かる敵兵。大剣をフォウルに向ける姿。
それを大きく振り上げたのが目に入った瞬間“フォウルが危ない”って、無意識に身体は動いてて──あぁアタシこんな早く動けたんだ。
自分でもビックリする位のスピードでフォウルと敵兵の間に身体を滑り込ませてて・・・防御は、間に合わなかった。

痛い・・?ううん、熱い?
分からないけど、ただ強い衝撃。

鮮やかな赤が飛び散って、それが自分のなんだって思って、アタシが倒れるまでの間が酷く長く感じて・・・。
見上げるようにすればフォウルの驚いた様に目を瞠る姿が目に入る。あぁ、ゴメン。驚かせちゃった?なんて。


──・・・ッ!!


フォウルがアタシの名前を呼ぶ声が聞こえる。
今まで聞いた事の無い焦った声・・アタシを心配してくれてるの?嬉しいなぁ。
何度か名前を呼ぶ声が聞こえて、でも身体がどんどん冷えていって、動かすのが億劫になる位に重たくて仕方が無い。
意識がドロドロと奥底に沈んでいくみたいで・・あぁ、眠たい。ちょっとだけなら寝ても良いかな?
ガリって胸元に小さな痛み。でも、それよりもずっと眠気が勝ってて、ぼんやり思って意識を手放──


「・・・・い゙、ぁっっ!!?」

唐突の激痛に身体が跳ねた。まるで寝かすまいと身体の内側から何かがアタシを起こすみたい。
ううん、もっと苦しい。アタシを熔かすみたいに酷い熱。
中から痛みを感じるのに、もっと奥深くに潜り込もうとする。

「・・・やっ・・ぁ・・・・・っは・・!!」

呼吸困難。苦しい、苦しい、頭の中がそれ以外考えられなくなる。
・・・助けて!誰か助けて!!怪我よりもずっと酷い激痛。逃れられない。
もがこうとして腕を伸ばしたら何か温かいモノに触れた。
でも視界が・・何かを視認してる場合じゃない。何も見えない。
嫌だ、怖い、痛い、熱い、苦しい、助け・・・助けて・・・・・っ!!

「た・・・す、・・・・・ぁぐ・・・・やっ!!」

“助けて”──何度言葉にならない叫びを放ったんだろう?現実には分からない。
ずっとずっと永遠にも感じた長い時間。それが漸く過ぎて、ズキズキとまだ痛む胸元を押さえるとコツリとした硬い物に当たった。
目線を落とすと・・紅い、石?何だろう、これ??ぼんやりとして元々回らない思考がもっと鈍くなってる。


・・・すまない」

落ちてくる声。顔を上げれば悲しい顔をしたフォウルがいて、アタシを抱き締めててくれて。
・・・あれ?今のフォウルが言ったの?フォウルが謝ったの?そんなの初めて聞いた。
だって“見誤った”とか“敵かと思った”って攻撃が掠めた時だって謝らなかったのに?
時間が経ったからか少しずつ思考がハッキリしてきた。敵兵に付けられた筈の傷が・・・もう無い。流したと思った血も無い。

「フォウル?何で謝るの?」

返事は無かった。ただ押し黙るフォウルに困ったけど・・でもまぁフォウルが助けてくれたんだよね?
だから“ありがとう”って言ったら驚いた表情をして──あれ?アタシ別に変な事は言ってないよね?フォウル。
疑問にも返事は無い。それが不思議で、不安で仕方が無かった。

その時のアタシは、まだ身体の異変には気付いてなかった。
ただ少しだけ体が軽くなったとしか感じてなくて・・・。

城に戻って鏡を見てからソレに気付いたけど結局はあんまり気にしなかった。
一応ビックリしたから説明はしてもらったけどね。
アタシがガーディアンになったって事、ヒトとは違う生き物に成った事。でもそれに対しての謝罪なんて正直嬉しく無い。
だってフォウルが助けてくれた事には違いないし、アタシ達が友達だって事は変わらないんでしょ?それにアタシはアタシなんだから・・ね?
そう言ったら一度悲しげに眉を顰めたフォウルは漸く口元に笑みを浮かべた。

「・・・違うモノに成ったというのに・・お前は変わらず楽観的、だな」

そうだよ?アタシがアタシじゃなくならない限りきっと変わらない。
ねぇ、でも楽観的で良かったでしょ?
問えばフォウルは薄く笑みを浮かべたまま一度頷いてくれた。



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