鳥篭の夢

おのれ



は凄いな』
『へ?何が?』
『自分の事とか今まで如何だったとか全然覚えて無いんだろう?それなのに今こうやって笑ってる。
それは俺からすれば凄い事だと思うよ。は強いんだな』

誰かが言っていた言葉。別にそんな事無い。アタシは過去を顧みていないだけ。
だって思い出せない過去に想いをはせたって仕方が無いから。
顔も知らない親や、この世界に興味が無いから。
面白くないんだもん。
必死に考えたって何か思い出せる訳じゃない。思い出したいとも思わない。
それなら今大切なひと達の・・・フォウル達の傍にいたい。

『お前はそれで良いのか?』

何時だったかフォウルが問うた言葉。
何も覚えていないままで良いのかって、何も知ろうとしなくて良いのかって。
でも別に如何でも良いの。アタシは悲しくなんて無いし、何も感じない。何も・・・・・

だって・・・アタシはアタシだ

それ以上でもそれ以下でも無い。アタシは此処にいる。ただ、それが自分の全て。
嫌なの、悲しむのは。だって悲しんでも過去は戻ってこないし。
嫌なの・・・また何時か忘れてしまうかもしれない過去に縋るのは嫌。
だから悲しまない、悲しくなんてない。
あまりにも無意味な事。そんなのに足りない頭なんて使ってられないもん。

それに、ほら・・今は戦争中なんでしょ?だったら、そんな過去に想いを寄せる暇があったら鍛錬しなきゃ!!
これ以上フォウルにばっかり護られるのはちょっと・・。
それに本当はアタシが護りたい・・って、もぉっ!そんな顔しないでよ!!


──あのね。たまに、ね?
たまに今アタシが立っている場所、今存在する場所、アタシ自身・・・全てが夢なんじゃないかって思う事があるの。
バカみたいって笑う?うん、でもアタシもそう思うよ。自分で自分がバカみたい。
だけど・・・もしこれが夢だったら“ホントウ”は何処にあるのかな?アタシにはそんなもの無いのかな?
全てが夢幻だとして、幻想だとして・・気付けば何もないのかもしれないって思って、それが少しだけ──怖いのかもね。

「だからフォウルに触れると安心するの。
アタシ、此処にいるんだよね?」

確認すればフォウルの金色の瞳が緩く細まった。

。お前は確認しなければ自分の存在すらも危ういか?」
「うん・・・分からなくなる。たまに・・・」
「ならば私に触れているコレは幻想だと・・?もしくは私が、か?」

「ううん・・・・ありがとっ!」

フォウルがアタシの手をとって・・温かさが伝わって、その優しい言葉でアタシが此処にいるって理解出来る。
嬉しくて抱きつこうとしたら拒否された。えー・・それは駄目なの?フォウルのケチー!!

「そういう問題ではない」
「そういう問題だよ!」

言って、笑う。見慣れたフォウルの呆れた顔が目に入った。
もしも次に記憶を失ったら、このフォウルの顔すらも・・・忘れちゃうのかな?声も姿も全部・・・?


「・・あのね。前に“うつろうもの”と“うつろわざるもの”は相容れないってフォウル言ってたよね?
でも・・・もしね、もし1つだけ許されるなら・・・」

アタシはずっとフォウルと一緒にいたいな。だってアタシ達、友達・・でしょ?
だから、ずっと一緒に笑ってたいよね。
ねぇ、約束しようよ、フォウル。アタシはきっとフォウルを忘れないから。 もし記憶がなくなったとしてもきっとフォウルを全て忘れたりしないから・・・だから、ずっと、アタシと友達でいて?

「それは約する事なのか?」
「・・・さぁ?如何なのかな。分かんないや」

へらりと笑えばフォウルがため息をつく。あー・・もぉ、やっぱり酷い!!
でも・・フォウルだけなんだよ?こうやってちゃんと色んな事話せるのも、一緒にいたいなって思うのもフォウルだけ。
だから・・・願ったら駄目かな?一緒にいたら迷惑かな?やっぱり、フォウルは1人が良い?アタシがいたら邪魔・・・?

「・・・?如何した、。行くぞ」

立ち止まったアタシに振り返って不思議そうな顔。あは・・・やっぱりフォウルは優しい。
ちゃんと言葉にしないけど、でも何時もちゃんと答えをくれる。
だからアタシはずっと笑ってられるんだと思うんだよ?これは本当だよ?だから・・・ありがとう。

それから、ただ笑ってアタシはその後ろ姿を追いかけた。


「──うんっ!!」



inserted by FC2 system