鳥篭の夢

ぎわく



「ん・・むぅ」

ころんと転がるみたいにさんが寝返りを打つ。目覚める気配は全然無い。
小さな寝息を立てながら気持ち良さそうな顔をしていて、その姿はとても愛らしいと思う。

「良く寝てらっしゃいますね」
「ああ、そうだな」

兄さまが一度だけ頷く。炎に照らされた寝顔はまるで小さな子供みたい。
体躯だってそう・・・私よりも小さくて華奢で、普段の元気は何処から来てるのか不思議で仕方が無い。
いえ。不思議だって思うならさんの存在が一番不思議ではあるのだけれど・・・・。

「一体、さんもリュウさんも何処から来たんでしょうね?」
「さぁな。2人とも記憶が無いんだ、流石に分からん。だが・・・」
「?」

呟いた私の言葉に、兄さまはそこで一度止めた。
悩むように緩く眉根を寄せるとさんへと視線を向ける。

「リュウは確かに発見した時から全裸だったりと、それこそ何の手懸かりもないが・・・。
はもしかしたら西側・・帝国の人間かも、しれんな。
見た目に反した力も考慮するなら兵士の可能性も捨てきれん」
「そんな・・!でも、だってリュウさんの探している方とお知り合いなんでしょう?」
「だがそれが向こう側の人間じゃないとは言い切れない。
それにの格好は西側の人間が着ている物に近い。確かにまだ推測でしかないが・・・」

確かにさんの格好は東側の服とは違う。着物のような上着にズボン。
それはどちらかといえば西側の格好に近いとは思った。だけど──

「でも、私にはさんが悪い人のようには見えないです」

呪砲を使い、呪いで街を沈め、人を簡単に傷つける帝国側の軍人さん。
それが命令で本人の意思と関係なく仕方のない事なのかもしれないけど、それでもそうじゃない人もいる。
情報を聞き出す為に関係の無い人を容易く傷つけた・・・ラッソ、と呼ばれていたあの帝国の軍人さん。
決してさんはあの人とは同じには見えなかった。

「それは俺も同じだ」
「そうですよね!」

頷いてくれる兄さまに少しだけ嬉しくなる。・・・あ、そうだ!

「帝国側の出身であっても、もしかしたら帝国の軍人さんではないのかも・・・」
「だが。それなら一体何の理由があって・・?」
「んー・・・さんは“主の命令”だと言っていました。
それがもし帝国側にいるけれど、帝国に賛同しない方だったとしたら・・」
「余りに楽観的過ぎないか?ニーナ」
「ですが兄さま・・私はさんの事を信じたいです。
あれだけ真っ直ぐに私達を見てくれていて・・・あの姿が嘘には思えないです」

私達に向ける笑顔は決して嘘じゃない。純粋な瞳。笑って、あちこち動き回って、楽しそうにしてる姿。
それと同時に時折辛そうに見えるあの表情は本当にさんが苦しんでいるようで・・嘘には見えないから。

「信じなければ、信じてはもらえませんものね」
「ニーナ?」

不思議そうな顔をする兄さまに私は何度か首を横に振った。

「私、信じてみようと思います。さんも、勿論リュウさんも。
帝国の人かもしれないなんて疑っていても仕方ありませんし、そうだったとしても絶対に敵とは言えませんし」
「そうか・・そうだな。記憶が無いからと疑っても仕方が無いしな」
「はい!そうですよ!!」

ニッコリ笑えば、兄さまも少しだけ困ったような笑顔になった。
さん。とても不思議な方。それはリュウさんも勿論そうなのだけど・・・・。
あぁ、早く2人の記憶が戻ればいいのに。なんて私はそっと、そんな事を思った。



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