鳥篭の夢

やさしいヒト



──ちりん

鈴の音が響く。あたしは目を開けて音の方を見る。マミの姿。

「あ、。起こしちまっただか?」
『キュー・・?』

別にそんな事無い。丁度目が覚めた時に鈴の音がしただけ。
すりすりってマミに擦り寄る。くすぐったそうに笑う声。
此処にいる人達は皆優しい。それは主を“神皇様”と認識して無いから?分からない。

「どした?腹でも減ったか??」

不思議そうに茶色の瞳が覗く。大丈夫って一度鳴いたら勘違いされた。“ちょっと待っててな”って台所に行く。
ちりん。また鈴の音。とてもキレイな高い音。あたし、最近はそれに耳を傾けるのも好き。
でもコトバが通じないのはとても不便。どうしようもない事・・だけど、喋れたら良かったのに。

『キューゥ』

マミは優しいヒト。主を包み込んでくれる優しいヒト。
主がその御心を許され、寄せられる唯一のヒト。
ヒトがこんなのばっかりなら良かったのに・・・。それが残念。


「ほら、できただよ。こんなしか家には無いけどゴメンなぁ?」
『キュッ!!』

大人しく座って待ってるとマミの声。小さな御椀にゴハンを入れて持ってくる。
食べやすいようにお水がかけてあって、端に昨日のおかずが少し。
そういえば村にいた犬が同じの食べてた。・・・・・・あたし、犬?

マミが頭を撫でてくれる。優しい手。労働してるから少し荒れた手。でもすごくすごく優しいから好き。
自分が犬かどうかなんて気にならなくなってくる。
あたしはガーディアン、主を守護する者。だから本当は犬じゃないけど、それを主張する気も無くなった。
マミはきっと見た目が動物だからコレをくれるんだと思う。それにゴハンは頂けるだけでアリガタイ。
“アタシ”がそうだから、食べなくても平気でも無駄にしちゃ駄目だから貰う。
カツカツ。あたしがゴハンを食べる音。ちらり、目線だけやったらマミは凄く嬉しそうな顔をしてた。

「たんと食え。そうでねぇと大きくなれねぇぞ・・?」

優しい声音。嬉しそうに笑いながら・・・どうしてなのかな?良く分からない。

「はようも元気にならんななぁ」
『──ゥ?』

優しく頭を撫でられる。それからマミの目線が主に・・・心配な顔。主の御怪我はまだ完治されていないから。
御椀に入ったゴハンを全部平らげる。それからマミの手を舐めた。気付く。視線があたしに戻ってくる。
あたしと御椀を交互に見やって・・・それから柔らかい、キレイな笑顔。

「ロン兄ちゃんより、の方が治るの早そうだべな」
『キュ!』

くすくす笑う声。いっぱい頭を撫でてくれて、だからマミの肩に乗って頬に擦り寄る。
コトバの通じないあたしが出来る、精一杯の親愛の情を示す行為。唯一それはマミも分かってくれる。
主の御怪我が完治されたらマミの元からは去ってしまわれるんだろうか?
きっとそう、主は都を目指されているから。
だけど・・・だけど、もう少しだけ此処で療養されると良いなと思った。まだ・・今はまだ。もう少しだけでも。


ヒトの優しさと温かさと共に──。



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