鳥篭の夢

それならば、せめて



「ありがとう、サイアス!」

笑うに俺はただ頷いた。泣き腫らした目は赤い。
ゆらゆら揺れている耳の形状の所為かまるで本当の兎のようだ。

「泣いたらちょっとスッキリするんだね。今まで知らなかったや。
まぁ泣くような事なんて今まで無かった気もするけどね。
昔は何があっても泣かなかったと思うんだ。薄情なだけかも知れないけど。
あ、でもサイアスに泣いたの見られちゃったのはちょっと恥ずかしいかなぁ」

何時もと何も変わらない笑顔。
一見、吹っ切れたようにも見える表情。だが・・。

「む、無理は・・・するな」
「え?何が?」

不思議そうな顔。それは無意識なのかもしれない。
俺にはただ彼女が明るく振舞おうとしているようにしか見えなかった。
常よりも饒舌過ぎる姿は不安を取り除こうと必死なソレだ。
しかし彼女に伝えても否定するのだろう。何時もの笑顔を向けながら。
自身、言葉足らずな面もある。だから俺はただ首を横に振る事しか出来なかった。

「そっか。んーっと・・でも、心配してくれたんだよね?
嬉しいけど、サイアスっていっつもアタシの心配ばっかりしてない?」

“あれ、気のせい?自意識過剰かな?”と言葉を続け、は悩む。
指摘され、大きく心臓が鳴った。鈍そうに見えて案外鋭いのかもしれない。
ジッとしておらず常に忙しなく動く姿、危険にすら自ら飛び込み勇んで行く短慮さ。
少女のような体躯も顔も行動に見合っていて、確かにそれはそれで心配である。
ただそれ以上に・・・それは何時からだっただろうか?
時折見せる、常からは想像も出来ない大人びた表情を見てしまったからかもしれない。
それが酷く気になって、に気を配るようになったのは事実だ。

「サイアス?ねぇねぇ、やっぱりアタシの気のせい??」

その答えは言える筈も無く・・・無言で頭に手を置いた。

「あ、今誤魔化したでしょ?ねぇ、サイアスってば!!
頷くとか首を横に振るとかその位のリアクションは流石に欲しいよ!
何だか本当に自意識過剰で恥ずかしいんだってー!!」

不服そうな顔で講義する、その姿は常のもの。
少しは元気になれたのだと再認識して安堵する。それは不可思議な想い。

「サイアス?」
「俺、も・・・が、いなくなれば・・・悲しい、と思う。だから・・・」

余り無茶はするな、と言葉が続く前に腹部に鈍い痛み。そして同時に感じた体温。
それからから抱きつくという名の体当たりをされたのだと分かった。
恥ずかしいやら痛いやらで如何反応して良いのかが分からない。

「えへへへ、ありがとう!すっごく嬉しい!!
あ、でもあんまり心配しなくて大丈夫だからね!アタシはガーディアンだから。
きっとサイアスよりも丈夫だから、逆に盾にしちゃっても良い位だからね?」

必死の言葉。しかし誰が好んで彼女を盾にしようと思うのだろうか。
善人であるつもりは無いが、一応そこまで外道のつもりもない。だから首を横に振った。

ガーディアン。ヒトではないもの。それを理由に彼女は無茶をするのだろう。
ならば出来るだけ怪我をしないよう、せめてその笑顔が曇らぬように支えたい。
不可思議な想い。それでも、そんな事を頭の端に思った。



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