鳥篭の夢

むかしのこと



「そう言えば・・」

不意にアースラが口を開く。視線は・・・アタシ?
あ、でももう皆寝ちゃってるもんね。アタシしかいないか。でも何だろう?

のその服は旧帝国軍槍兵隊の軍服か」
「・・・えっと?」

きゅーてーこくぐんそーへーたい?何それ。

「何だか、すっごい長い名前だね」
「私はそう教えられたからな。違うのか?」
「んー・・そんな名前じゃなかったと思うよ。まぁ、一応帝国の軍服なんだけどさ。
あの頃ってフォウルが帝国を建国したばっかだったから、あんまり細かい区別とかって無かったんだよね。
えーっと、兵士と隊長と将軍とーって感じで階級ごとには分かれてたのかな?確か」

アタシのは一般兵。だって別に軍としていた訳じゃないから。
でもこっちの方が動きやすいんだよね。丈夫だし。だから軍服借りてただけ。

「そうか・・・。伝えられている事と真実は違う事もあるのだな。
現在の帝国軍服は階級だけでなく扱う武器や所属部隊でも区別されている」
「・・・・そんなに細かいの?」

うわ、アタシ覚えられ無さそう。

「ああ、だからそれが普通だと思っていた」
「そっか」

やっぱり時間が流れただけ変化してくんだよね、ヒトの世は。何だか不思議。
多分。アタシ自身がそんな遠い昔だって全然感じてないからそう思うんだろうけど。

「フォウル神皇様の事もそうだ。フォウ帝国建設の祖・・・あくまでも歴史上の人物だと思っていた。
まさか神皇様が“竜”で今も生きておられるなどと、微塵も考えに無かった」
「うーん・・・ちゃんと言った筈なんだけどねぇ」

“数百年の後に蘇る”って。

「・・・・それは、我々には教えられていないぞ?」
「あ、やっぱり?」

そうだよね。だって伝わってたらあんな事にはならなかった筈。
あ、それとも位を返したくなかった?そうなのかも知れない。
ヒトの考える事は分かんない。あんなの面倒なだけなのに。
盟約──ずっと昔に取り決めた事。フォウルが目覚めた時には皇帝の位を返上する。
それまで・・誰だっけ?一応、兵としても指揮する者としても優秀なヒトを選んだと思うんだけど。

「そうだな・・だが、帝国で最近“帝国に災いをなす忌まわしき竜”が復活したと騒いではいたが。
その関係で私は東へと派遣されていたんだ。完全に復活してしまう前にもうひとつの竜を捕獲せよ、と」
「それが・・・リュウ?」

アースラはひとつ頷く。
・・・・忌まわしき竜。そういえば同じ単語を“あたし”が聞いてたっけ。
ちゃんと思い出せないけど、確か・・寝所の近く。
それを退治する為だと帝国の兵士がいたと思う。

「本当にヒトは──」

愚かで、どうしようもない存在。
うつろうもの。自分の損得だけで動いたり、身勝手に他人を傷つける。だけど・・・。


「それともうひとつ気になっていたのだが・・・・・」
「え?」

何?何かあった?

「お前がフォウル神皇様と共にいた兵だとすると・・・」

そこでアースラの言葉が途切れた。兵だとすると、何だろう?
考えて、それからアースラが深く1つため息を落としたのが見えた。え?え?何で??

「これも、歴史として残っていた話だ。
今までから聞いた話を考えれば捻じ曲げられたのだと思うが・・・」

うんうん。

「神皇様の傍らには常に2匹の巨大な獣と、屈強で勇壮な側近の男がひとり・・と」

・・・・・・・・男?

「側近の男??そんなのいないよ?」

巨大な獣は分かる。オンクーとアーターでしょ?だけどヒトは違う。
まずフォウルの傍にヒトが寄ってくる事自体が珍しい事で・・・あ、アタシは別としてだよ?
で、ヒトの形をしててフォウルと一緒にいたのはアタシだけだから・・・・・。

「・・・・アタシ、そんなに男っぽいかなぁ」

それはちょっとショックかも。流石に今まで男に間違われた事なんて無かったんだけどな。
・・・・あれかな?髪の毛伸ばしたらまたちょっと違うのかな??

「だから歴史として残っている話だと言っているだろう。
兵士の士気を上げる為に、事実とは違う事が語られた可能性も否定できん」
「そ、そっか・・そうだよね!」

そうだって信じたい。だって流石に男らしく見られてたなんて思いたくないし。
っていうかそんな風に言ったの誰だろう?知ってるヒトだったらヤダなぁ・・もうほとんど忘れちゃってるけどさ。

「しかし・・・・兵士の憧れであり目標とされた人物が、まさかとは・・・」
「あははは」

女だし、ちっちゃいし、馬鹿だし。
野馳り族だから力は強い方かもしれないけど・・・屈強って訳でもないし。
皆にも迷惑かけてたっけ。全然信頼されるような存在じゃなかったんだよね。
あ、でも体力はあるよ?大丈夫!

「・・・昔は“女など”と言われた事もあったものだがな。いや、真実を知れて良かったよ。
全く。偉そうな面をしていた男共が憧れ目指した者が、まさか女だとは・・・」

“それもまた面白いものだ”って笑って・・・。あはは、男女差別しちゃ駄目だよねぇ。
でも、良いなぁ。アースラの笑顔。どこか楽しそうに笑う姿。滅多に見れないよね、これ。
笑うアースラにアタシも笑う。やっぱり、だからヒトは嫌いになれないなぁ・・なんて。



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