鳥篭の夢

ふあんとねがい



遠い。まるで、靄がかかったみたいに遠い。
もどかしい。届く為には自分の手は短すぎて。

伝わってくるのは、ヒトへの絶望。

嫌だ。このままフォウルと離れちゃうのは嫌だよ。
怖い。このままフォウルが進んじゃうのは怖いの。

お願いだから、フォウル。
笑ってとは流石に言わないから、そのまま行かないでっ!
嫌だよ。アタシ、そんなフォウルは嫌だ。
マミはきっと大丈夫。きっと無事だから・・・・・だから、お願いっ!!


「・・・・っ」

身体がバネみたいにビョンって跳ねて起きる。起きる?
辺りを見渡せばアースラもニーナも寝てる。

・・・・・・夢?

「・・・・はぁー」

深呼吸。何だ、夢だった───ううん、違う。違うよね。夢、じゃない。
だってあれはフォウルの感情だもん。アタシに伝わってくる程の気持ち。

怖い。怖かった。ヒトへの怒り。如何にもならない位の絶望。
遠くても分かる。近付いていってる今なら尚更。凄く、良く分かる。

テントからそっと抜け出してみれば、ひんやりした空気が入ってきて気持ち良い。

あの感情のままフォウルが帝都に行って。そうしたら・・・ヒトはどうなっちゃうんだろう?
リュウは?アタシは・・・如何なるんだろう?
ううん、アタシはフォウルだけが大事。ただフォウルを護るの。それだけ。
ずっとずっと昔からそれだけが目標で・・・あ、護るのが目標なのは変かな?でもそうだもんね。
それで他のヒトは何時だって如何でも良くて。だからこんな事考えるのがそもそも変で。
ぐるぐる。変な感情が胸を苦しくさせる。何だか気持ち悪い。変な感じ。イヤだ、こういうの。


──カタン


物音?見てみれば、サイアスの姿。
別段意外とは思わないのは何だかんだ気に掛けてくれてるのは理解してるから。
如何してアタシを気に掛けてくれてるのかはサッパリなんだけどさ。

「サイアス・・・」

名前を呼ぶけど無反応。ただ、アタシをじっと見る。

「サイアスは寝ないの?」

訊くけど、やっぱり反応は無い。アタシの方を向いたまま。
えぇと・・・あ、もしかしてアタシは如何するのかって訊きたいのかな?
言葉が少ないのってフォウルと近いけど、サイアスはもっと無口。
目も見えてないからフォウルよりもっと分からないんだよね。分かるのは雰囲気くらい。

「アタシは大丈夫。
ちょっと目が覚めちゃっただけだから、すぐ寝るから」

言えば、サイアスはちゃんと頷いてくれる。
ちゃんと分かるように返してくれる。それが、ちょっと嬉しい。

“アタシは大丈夫”

それはそうだ。ガーディアンだから頑丈だし、あたしが戻ったから今は記憶だってある。
ガーディアンとしての力の使い方。今までの記憶、想い。全部が。
だから負けない。フォウルの元に戻るまでは絶対に大丈夫。確信に近い自信がある。
だけど・・・だけど、皆は?
リュウは大丈夫。半身様だから。出逢うのが“さだめ”だから。

でも、ニーナは?クレイや、マスターや、アースラや・・・サイアスは?
一緒に来て本当に大丈夫?フォウルに会う為に一緒にいて大丈夫?
仲間だって言って、フォウルは受け入れてくれる?ヒトにあんなにも絶望しているのに?

「・・・大丈夫だよね?」

っと、口に出しちゃった。
こういうの、口にしちゃうの良くないって聞いた事あった気がする。

・・・?」
「ううん、何でもない。変な事言ってごめんねっ!」

だって、アタシにはきっとどうにも出来ない。
フォウルが主だから。絶対、一番に大切な存在だから。
きっとどれだけしたくないような恐ろしい命を受けても、全うしなくちゃ。
あたしだってあんな目に遭ったってやりきった・・・うん、きっとやりきったから。同じように。

「おやすみなさい、サイアス!」

少し不思議そうに首を傾げたから、何か言われる前にそう言ってテントに戻った。
サイアスって何も喋らないけどそういうのを敏感に察知する方だと思う。何かズルイ。
・・・あ、でももしかしたらアタシが分かりやすいのかも。フォウルだってよく呆れてたし。
ひとつ息を吐いて、テントの天井を見つめる。

でも・・・フォウル。
本当はそんな事しなくても良いって思うんだよ?アタシは。
そんな感情のままでいなくたって大丈夫だと思うの。

きっとまだ、絶望するには早い。
だって大切なヒトは生きてるだろうから・・・。



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