鳥篭の夢

これから



「あ、おらは此処でもう大丈夫ですだ。
わざわざ送ってもらって・・・本当にありがとうでした!」

柔和な笑みを向けるマミにサイアスは1つ頷いた。
立ち止まった場所は、彼女の住んでいる村の入り口。部外者を好まぬ地主の事を考えての事だろう。
サイアスに事情は分からない。だが詳細を求める素振りは無かった。

「・・・あの、お前さまはこれから如何されるんだべ?」

不意に問うたマミの言葉にサイアスは首を捻る。
これから・・そんな事は考えていなかったと、そう告げるようだ。

「それはこっちも聞きたいってディース様が言ってますよ」
「おら、ですだか・・?」

マスターの問い。まさか自分に返って来るとは思わなかったのだろう。
マミは少しだけ考えるような仕草をすると、また柔らかく笑みを見せた。

も兄ちゃんもいなくなっちまって・・・。
だから、おらは此処でまた畑さ耕しながら待ってようと思っとります」
「ま、待つ・・・?」
「はい。は“また会える”って言ってたから・・・。
おらも会えるって信じとりますんで、だったら慌てても仕方ねえですし」

“だから、待つ事にします”と、マミは変わらぬ表情のまま続けた。

「ふふふー・・流石フォウルの選んだヒトだって言ってますね」
「え?お・・・おら、何かおかしな事言ったですだか?」

慌てるマミにマスターは首を横に振った。
それから常と変わらない、妙な笑い声を上げる。

「うふふふー。きっとフォウルは戻ってくるって言ってますよ。
2人とまた会えるって・・だから安心したら良いのですね。うふふふふー」
「えと。あ・・・ありがとうです」

マミは一瞬どう反応しようかと僅かに困惑の表情を見せ、それから頭を下げた。

「・・・俺、は・・・」

ぽつり。サイアスから言葉が零れた。その声に2人も視線を向ける。

「・・・俺も、待つ。を・・・」
「はい。じゃあ、おらとおんなじですだ」

こくり。サイアスは一度頷き、その様子をマミは穏やかな表情で眺めた。
暫くそうしてから、マミは“そろそろ・・”と、もう一度頭を下げて村へと帰って行く。本来の生活に戻る為に。
その後姿が見えなくなるまでじっと見送ってから2人は漸く歩き出した。


「サイアス、大丈夫ですよ。は帰ってきます」

確信的な言葉。それにサイアスは首を傾げた。

「ディース様がそう言っているので間違いないのですね。うふふふふー・・」

ぴたり。唐突に笑うのをやめて首を左右に振る。

を待つ間にする事がないのなら、一緒にチャンバに来れば良いようです」
「・・・?」
「あの町はまだ呪いに沈んでいますから除去作業を手伝えば良いのですね。
マスターは親方を知っているので再就職も難しくないみたいですよ。ふふふふふー。
・・・・呪いは、神が消えても無くなるものじゃないですから」

マスターの言葉に、漸くサイアスは頷いた。呪いとはヒトの犯した罪。
神様という存在に頼らずに少しずつヒトの手で取り除いていかなければならないのだ、と。
サイアスはふと空を見上げ、考える。
ガーディアンだと言っていたあの少女は、神がいなくなった今、何をしているのだろうかと。

「・・・どうかしましたか?サイアス」

言葉にサイアスは首を横に振り、また歩き出した。



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