やくそく
一陣の風が駆け抜ける。その先──1人の男へと目線をやった。
名は・・・・サイアス、だったか?
そういえばが酷く懐いていた・・・いや、情愛を抱いていたというべきか。
そもそもにも誰かを恋い慕う感情があったという事には酷く驚かされたが。
とにかくサイアスという男は口数こそ少ないが、その足運びや気配の消し方からも手練だという事は分かった。
無論、竜であった時の私とでは足元にも及ばないだろうが相手がヒトであれば充分な程だ。
視線に気付いてだろう。不意に顔を上げて私へと向ける。
互いに何かを言う訳ではない。喋るという事を好まない性質であるのは近しいのやもしれぬ。
とはまるで正反対。・・・だからこそ惹かれたのだろうがな、私も、奴も。
「・・・・?な、何・・か?」
用事でもあるのかと言わんばかりの言葉。
それに私はただ黙したまま首を左右に振った。
「他意は無い。ただ──」
一度言葉を区切れば、更に奴は怪訝そうに首を捻る。
「の事は任せたぞ。
アレは楽観的だが、決して強くはないからな」
言葉に、サイアスはひとつだけ頷く。それだけで充分だ。
口には決して出せぬ事。
だがを悲しませる者を、私は決して許せはしないだろう。
不可思議ではある。同時にごく当然の感情でもある。
親愛なる唯一無二の我が友に対しての、当然の感情。
そう。誰であろうとあの笑顔を曇らせるなどと、万が一にも許される筈など無いのだから。