鳥篭の夢

親友との出会い



「西の山は危ないからね、絶対に村側の麓で遊ぶのよ」
「はーい!」

大きく手を上げて返事をした私は意気揚々と出発しました。勿論、西の山を登る為に。
この当時は本当にお転婆で、聞いているようで人の話を聞かない子でした。
しかし魔導の力の大きさからか、それとも子供は許容してくれたのか魔物に襲われた記憶は一度もないのですが。

「ここをのぼったら・・・キラキラしてるとこ・・・んしょっ。着いた!」

光が上から差し込み、キラキラと中を照らす場所。
3つの像・・・後で大きくなってから調べて、三闘神と呼ばれる魔導の力をもたらした神々の姿を模したものだと分かりましたが。
当時はあの光に像が輝いて見えるのがとても綺麗で・・・暇な時はよく遊びに行く絶好のスポットだったのです。

「えへへ、キラキラきれーねぇ」

キラキラ輝く像を眺めに行くのは小さな冒険みたいなワクワク感がありました。
また、大抵軽いハイキング気分だった私は、その日も敷き布を敷くと母から貰ったおやつと水筒を出します。
と、確かその時だったでしょうか?物音がしたのは。

「??・・・だれかいるの?」

小動物か何かだろうかと私は首を傾げます。
決して魔物かもという思考に至らない辺りこの頃の私の危機管理能力は皆無でしたが・・・。
とにかく物音の辺り、像の近くへと私は駆け寄りました。
そこにいたのは────

怪我だらけの青い被毛の生き物。

『・・・・・・っ!?』
「だいじょうぶ?ケガしてるの??」

赤い宝石のようなものを額に持つ、小動物のようなその生き物はあちこちケガをしていました。
呼吸も浅く傍目より傷が深かったのでしょう。後退ろうとしてもうまく動けていないようでした。

「いたいよね・・・えっと、いたいのいたいのとんでいけー!」

まだまだ親からケアルを使われる事はあれど魔法を使う年齢でもなく。
薬は消毒液と絆創膏程度しか手持ちが無かった私は、とにかくと母親がよくしてくれたおまじないを小動物にもしてみます。
偶然にも治してあげたいという気持ちが強かったからか、結果的にはその子を治せましたが。

『魔法・・・だと?お前、魔導士か!?』
「まどーし?」
『遥か昔・・・魔大戦の頃に生み出された、人間に魔導の力を注入した人造兵器だ。
幻獣が去って尚も人間達はそんな非道な事をしてんのか?こんな子供に迄・・・?』
「・・・、今のははじめて使ったよ。
それにのすんでる村のひとたちは、みんなまほうが使えるよ?」
『・・・は?』

小動物はキョトンとしながら私を見ます。
私も思わず首をかしげて、それから自分の発言に間違いがあった事に気づきました。

「あ、まちがえた!おとうさんは使えないの!」
『一体どういう事だ・・・?』
「えーっとねぇ・・・」

うーん。と、私は思わず悩みました。
確かあまりそういった歴史は知らなかったんですよね。まだ3歳だか4歳の頃の話ですし。
とにかくサマサの村の人間は魔法が使えて、外から来た父親だけは使えないのだと説明をしたような気がします。
それに生き残りだなんだとぶつぶつ言ってたような気はしますが・・・うぅん、何分そこら辺は記憶が曖昧なんですよね。

「でも、まほう使えたのはじめて!
えへへ、おかあさんにいわなく────っこほ!」

そうそう。この時、珍しく薬を飲んだのに咳が出たんですよね。
多分、あの子の持つ強い魔導の力に当てられたのでしょうけども。
急に圧迫感が強くなって、それを吐き出そうと私は何度も咳き込みました。

「こほっごほ!!」
『お、おい!どうした急に・・・!』
「おむね、くるし・・・ごほっ!げほ!!」

薬は家に置きっぱなしです。そもそも昼食後の薬は飲んだ筈でした。
だからこの時間に発作が起きる筈はなかった。私はパニックになりながら胸を押さえます。

『魔導の力の暴走か?・・・掴まってろ!』
「こほ・・・ぇ?」
『お前の村までとぶぞ────テレポ!』

身体に強く重力がかかり、一瞬息が詰まって・・・気付けば私はサマサの村の前にいました。
大人達が気付いて慌てて家まで運ばれて。あれよあれよと言う間に薬を飲まされベッドに寝かされました。

、大丈夫?もうお薬も効くからね。
でも変ね。昼の薬は飲んだのに・・・おばあちゃんにお願いして早めに配合を変えてもらおうかしら?」
「あのね、あのね、おかあさん。、きょうまほうをつかったよ」
「魔法を・・・?」
「うん、ねこさん・・・いぬさん、ねずみさん?
ええと、わからないけどじょーずになおしたよ!」
「そう。それは凄いじゃない!お母さんは子供の頃は上手に魔法を使えなかったから・・・。
本当に凄いわ。今度、それもおばあちゃんに伝えてみましょうね」
「うん!おばあちゃん、すごいねっていってくれる?」
「ええ、勿論よ」

優しく頭を撫でられて上機嫌になった私は母に“もう少し休みなさい”と布団をかけられてそのまま目を閉じました。
あの時の子は、そういえば何だったのだろうかと今更に思いながら。

翌朝、何だっただろうかと思っていた小動物はベッドの傍にいました。
曰く“人間に見つかる訳にはいかないから”との事で、どこか不満そうな顔をしていて、尻尾も不機嫌そうに揺れていましたっけ。

「じゃあといっしょにいようよ」
『別に良いぞ。お前は助けてくれたし、悪いヤツじゃ無さそうだし』
「えへへ。はいいこだよ」
『ああ。そうだな。
あん時は助けてくれてありがとな』
「でもあなたもを助けてくれたよ、ありがとう」
『あー・・・・・そういえば名前、言ってなかったな。
俺はカーバンクルだ、よろしくな!
「カーバンクル・・・うん、よろしくね!カーバンクル!」

片手と前足を合わせてお互いに笑って・・あの温かさを、私は今もずっと覚えています。
親友、カーバンクルとの出会いは今でも大切な思い出ですから。



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