鳥篭の夢

憧れていた穏やかなひと



「けほっ」

昔から、常に私の体の中には圧迫感がありました。

「けほ・・・こほっ」

だから何時もソレを外に出したくて咳をしていたように思います。

、また咳が出ているわね。お昼のお薬は飲んだの?」
「うん、飲んだよ。でも今日はおばあちゃんのところに行ってくるね」
「おばあちゃんの?」

母の言葉に私は一度頷きました。

「おばあちゃんのお薬、無くなっちゃったから」
「あら、そうだったのね。
最近はが1人で薬を飲めるようになったから・・・うっかりしてたわ。ごめんね。
おばあちゃんによろしく言ってちょうだい。それと一緒にお土産を持っていってくれる?」
「うん・・・けほっ。良いよ」

この頃はよく咳をしていて、ただずっと何をしても苦しかった記憶があります。
咳をしても胸を圧迫する息苦しさが消えるでもなくて、それでも吐き出したくて咳をする。
そういう時は何時も祖母の元へと赴きました。
薬師である祖母は私の症状が病気ではないとすぐに見抜き、初期から同じ薬を処方してくれていました。
身体に溜まった魔力を体外へと排出する薬。ソレは合わせて外からの魔力を入りにくくする作用もあります。
今では1回だけで済む薬も、当時は朝昼晩と寝る前の4回。無くなったらその都度状態を見て再度調合してもらいました。

私が薬師に憧れて目指すようになったのは祖母の存在が大きかったでしょう。
苦しさを取る薬を作れる祖母は私にとって英雄のように凄い人だったのですから。

色んな薬草の匂い。祖母が織ったという鮮やかな壁掛けや、色合いの綺麗な調度品。
ストーブにかけっぱなしのヤカンが蒸気を立てている音と調薬する音が混ざった、そんな空間。
そこで祖母の仕事を見ているのが大好きで、時に教えてくれる祖母の穏やかな声が大好きでした。

「薬草の効果だけを見て組み合わせちゃあいけないんだよ、
薬草同士を掛け合わせても劇薬が出来る事もある。薬草の特性をよく見極める事が大切だ」
「だからおばあちゃんはのおくすりも作れるの?」
「そうだよ。も練習すれば作れるようになる。
今度は調子の良いときにおいで。そうしたら薬の作り方を教えてあげようね」
「ホント!?ぜったいよ、ぜったいに教えてね!──っっ!?・・・こほ、ごほっ!」

興奮してしまったからかバチバチと私の体が帯電して、痛みと同時に咳も出ます。

「まずはよくお薬を飲んでお休み。
魔導の力が安定していないまま力を使えば自分も痺れてツラいだろう?」
「・・・うん、痛かった」
「そうだねえ。まずは急に感情が高ぶらないようにした方が良いかもしれないね。
丁寧に喋ってみる、とかね」
「ていねいにしゃべってみるの?・・・ですか?」
「ふふふ。そうそう、その調子さ。
今までしてこなかった事をすると考えなくちゃいけないだろう?だからカッと気持ちが高ぶらなくて済む」
「そっかぁ・・・・ぇっと、そうですね?」
「ふふふ」

祖母の穏やかな笑顔。それに私も笑みを見せました。

祖母はまだ私が村にいる間に亡くなってしまいましたが本当に多くの事を学びました。
その全てをメモし続けた手帳は今でも宝物ですし、今もまた発見があればこの手帳に書き留めています。
喋り方も・・結局これで慣れてしまったのでそろそろ効果は無いかもですが、祖母の影響は大きくて。
今ではもうどんな顔や声をしていたかは朧気ですが・・・・今でもあの優しい空間と祖母の言葉は思い出せます。
あの人は、昔から今までずっと────ただ私の憧れのひとなのです。



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