鳥篭の夢

真実の終焉は



俺の名前はカーバンクル。
同族には見た目の割に口が悪いとか言われていたが・・・まぁ、今それは置いておこう。
現在の俺は謂わば外側・・・身体が死んでいる状態にある。魔石化ってヤツだな。
魂としては此処に存在しているし、意識も力もある。ただ人間に意思疏通を行うのは困難な状況だ。

親友、は俺が魔石になった今もずっと俺を傍に置いている。
そして基本的には話せないと分かっていて、それでも話しかけてくる。
短い間しか“俺”として傍にいる事は出来なかったが・・・人間が悪い奴らだけじゃないと俺に教えてくれたのはだった。
正直、マディンのヤツは惚れた弱味だと思ってたからなぁ。
あの人間の女ともそんな関わらなかったし。子供が生まれた時は祝いにも行ったがその程度だ。

人間の軍勢が幻獣界に侵攻してきて俺の仲間達を捕らえて・・・。
俺と数体の仲間は何とか逃げ延びたが──いや、アイツらも今はどうなってるやら。
元々戦う力が無い俺は攻撃を受けつつも命からがら逃げ出した。

もう死ぬと思ってたんだ。
独りで。
どうしようもない最期を迎えると思ってた。

「だれかいるの?」

そんな時に俺を救ってくれたのはアイツだった。
はどう見ても普通の小動物じゃない俺を魔法で治してあまつさえ傍に置いたんだ。
こっちは幻獣だっつってるのに怯みもしないし。親友だと言い張って、何をするにも一緒で。
ただし他の人間には隠れたりぬいぐるみのフリをしたり──いや、数人には気付かれてたか。
特にあの婆さんは俺が幻獣である事もしっかり認識してるみたいだったな。あれはヤバかった。

はとにかく不思議なヤツだった。
潜在魔力も尋常じゃない程度には大きいのに、更に外からの魔力干渉も直に受けやすい。
当たり前だが、人間は魔導の力を元々持ち得なかった。
俺達みたいに存在を変質させて魔導の力に依ってる訳でもない。
そんな脆い器に強い力が収まるかと言えば・・・・・・まぁ普通に考えりゃ無理だからな。
幸い何か物を通せば簡単に体外に放出可能で、本人が物作りが好きだったから今も何とかなってるが。

キラキラと金にも銀にも見える髪色が不思議で。灰なのに滲むように青がかって見える瞳の色も不思議で。
何度か遊びに出かける内に、それが魔導の力が強すぎる所為でその色合いに染まってるんだと理解した。
髪は潜在能力の強さが表面化したんだろう。母親も不自然な力がある所為か似た色だしな。
生まれながらに力が強けりゃ、毛色がおかしいってのはまぁある事だ。起こる事自体が稀だが。
そんでもって瞳は外からの影響だな。弱い箇所ってのは影響を受けやすい。
本来、人間なら起こる筈の無い魔導の力による干渉に、身体が耐えきれなくて滲むように染まるんだろう。
元々灰色だと思うソレは、調子が悪くなっている時に青みが強く出るから間違いない。

俺は知っていたんだ。

本来持ち得る魔導の力以上の力がに干渉すれば、その身体は簡単に壊れるって。
そしてその外側から干渉していた力の原因のひとつが俺だったって事も───


「カーバンクル、見てますか?今日はお天気が良いですよ。
本当は貴方の大好きなクッキーを焼きたいのですが、石の前に置いといたらお供えみたいになっちゃいますよねぇ」

不意に光が差し込んで我に返って──って、くそ!お供えとか言うな。
俺はまだ生きてるよ!クッキーが食えないのはマジで残念だけどな!

「ふふふ。何か言いたそうなのが分かるのがちょっと面白いですよねぇ」

止めろ、つつくな!
お前は大きくなってもそういうとこ変わらないな、!!

「カーバンクルがいてくれたから今の私がある訳ですが・・・。
私があんなにお転婆でなければ今も無事に傍にいてくれましたかね?」

ふと、つつく指を止めて呟く声。
そんな訳はない。結局は幻獣としての俺の魔導の力でを蝕んだだろう。
力そのものを内側に凝縮した魔石なんて存在になったから、普段の力の干渉が抑えられてるってだけで・・・。
お前覚えてないだろ?あの数年だけいつもの倍量の薬を飲んでたんだからな?

あの日の事は・・・まぁそりゃあ忘れないけどさ。



「カーバンクル?どこに行っちゃったですか?」

あの時のお前は婆さんに何か吹き込まれて変な喋り方になってたっけか。
何時もの散歩コースの西の山でかくれんぼしてたんだよな。
あの日のクッキーも美味かった。最後の一枚はに食われて悔しかったのも覚えてるからな?
食い物の恨みは怖いってもんだ。・・・・・・じゃねぇな。話がそれた。

「んん・・・ここかな?」

隠れた場所と全く別の場所を探し始めるから、うまいこと見つけられる場所に移動しようかと考えていたその時。

「ふぇ?ひゃ────っ」

ガラガラと岩が崩れる音。
が何故かよじ登っていた崖から・・・今でも何であの場所に移動しようと思ったのか理解に苦しむんだが!
とにかく丁度足を滑らせて落ちようとした瞬間を目撃して、俺は一目散に駆け出した。

『──っくそ、プロテス!』

間に合わない。直感して、あん時はプロテス位しかかけるもの無いってのも絶望したが。
とにかくそのまま体を地面との間に滑り込ませてクッションになる。
めちゃくちゃ重かった。降ってくるし、俺お前より小さいからな?無事で良かったが。
少々の擦り傷程度で済んだらしいは、慌てて俺から退いてニッコリと笑った。

「ありがとうございますです、カーバンクル!
すごいです、全然痛くなかったよ!」
『あのなぁ、俺は補助しか出来ねえんだから無茶すんな!』
「えへへ、ごめ───」

不自然に途切れる言葉。
直後、“ごほっ”と大きく咳き込みながらは血を吐いて倒れた。

!?』

限界だった。そして、その限界を俺の力で突破した。
俺の使ったプロテスも結局はを蝕む毒にしかならなくて。
目の前が真っ暗になると思ったんだ。あの時。
こんな俺を助けてくれた人間を、親友と呼んでくれたヤツを、俺は俺の手で殺しかけてるんだと漸く実感した。

とにかく魔法はダメだ。テレポでも使えばはお陀仏だろう。
慌てて鞄の中を探って、この頃には念の為と入っていた予備の薬とポーションを飲ませる。
一瞬痙攣したように体が動いて、それから何度か咳き込んでからは眠った。

『やっぱ、もう限界だよな・・・』

分かってた。ずっと分かってて傍にいた。だけど────


「・・・ん、むぅ」
『おう。起きたか、。そりゃあ良かった』
「カーバンクル・・・?なんか、光ってるですよ?」
『・・・・悪いな、さっきので俺も限界だったらしい。
久々に全力出したら身体にガタが来たみたいだ』
「え?」

真っ赤な嘘だからな?めちゃくちゃ元気だったからな?俺。
今ガチで思い出されるとすぐバレるようなみえみえの嘘吐いたんだよ!
・・・自ら魔石化したんだ、の傍にいたかったから。
お転婆なアイツが心配で、傍にいれば蝕むのに離れたくなくて・・・バカだろ?分かってて、それでも俺は選んだ。

『俺の体は死んで魔石になる。
でも俺はちゃんといるし、何ならちょっと助けるくらい出来るからな?
・・・石になったからって捨てるなよ?』
「え?え?どうして、カーバンクル!しんじゃうの、やだよ!」

感情が乱れて辺りに雷が走る。
ショックだったのは分かるが、辺りの岩とか破壊するレベルの放電を平気で出す辺り、当時のアイツのコントロールはヤバかったな。

『危ねぇなぁ。それもいい加減に直せよ?
石になっても痺れるからな?下手すりゃ割れるからな?
流石に魔石が割れたら俺も完全消滅案件だし気を付けろよ』
「だ、だって・・・っ!」
『だってじゃねぇよ』
「うぅ~・・ぁ、ねぇケアルしてもダメなの?」
『ダメだな』
「ぜったいに石になっちゃうの?」
『なるな』
「ぅぇ・・・ひっく。ご、ごめんね。ごめん・・・っ、カーバンクル。
ゎ、私が、カーバンクルの上にのっちゃったから・・・ふぇぇ」
『・・・そっちか。それはまぁ重かったが・・・いや、違うっての!
前にも言っただろ?幻獣界とは違うから調子出ねぇって。
元々ガタは来てたんだ。タイミングが今ってだけだよ』

調子出てなかったのは本当だけどな。コントロールしにくいっつーか。
ぼろぼろと大粒の涙を流すの目元を前足で拭うが・・・あーあー全く意味なかったな。

『心までは死なないよ、俺は。
ずっとお前が魔石を持ってる限り、魂としては傍にいるから』

本来なら何も残せずに死んでたかもしれない俺に。
魔石を遺させてくれるにどれだけ感謝してるか・・・なんて言わないけどな!

「うん、うん!クッキーお供えするからね!」
『供えるな!だから中身は死んでねぇってば!』

言葉にぱちぱちと何度か目を瞬かせて、漸くは笑う。

「そっかぁ。ホントはしんでないの?石でもカーバンクルなの?」
『まぁ、そうだな。おしゃべり出来ねぇだけだ』

もうそういう事にしとこう。一応間違ってねぇし・・なんて、あん時は諦めの境地だったな、うん。

「そっか。おしゃべりできないの淋しいけどガマンする。
ねぇねぇ、石でもずーっと私とカーバンクルは親友のままだよね?」
『当ったり前だろ?』
「えへへ。良かったぁ」
『安心しろよ、親友!』
「うん!」

涙でぐしゃぐしゃの顔で、それでも精一杯の笑顔で受け入れてくれて・・・。
自己満足の罪悪感半端無かったなーあん時は。
でもまぁ結局はみるみる内に薬の量も減って元気になったからな。俺的には満足してるんだぜ?



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