鳥篭の夢

ご近所さん家族の話



、おばあちゃんはいる!?」

慌てた様子で入ってきたのはご近所のお姉さんと飼い犬のインターセプターでした。
確かこの時は祖母の家で調合の練習を兼ねてお留守番をしていたんですよね。
何時もなら尻尾を振って駆け寄ってきてくれるインターセプターも慌てているようでしたっけ。

「今は薬草を摘みに出ていますよ。どうされましたか?」
「あの、大怪我をした人が村に・・・。
私の家までは歩けたんだけど、そのまま倒れてしまって!」
「っ!!私が診に行きます!
インターセプター、おばあちゃんを呼んできてくれますか?」
「ワンッ!」

インターセプターは普段他の人には懐かないのですが言いつけを守れる良い子なのです。
その時もひとつお返事をして駆け出しました。私も必要そうな薬を纏め、お姉さんと共に家まで向かいます。

結果から言うと、男性は助かりました。
見た目ほど傷が深くなく、骨折や打撲が主で命には別状なかったのが幸いでしたね。
流石にお腹に穴が開いてたり、大量出血系であれば当時の私では治しきれなかったでしょうから。
回復魔法をいくつかかければ外傷はすぐ良くなったのですが・・・。

「これは栄養失調になりかけてるね。
どんなルートを通ればこんな辺鄙な村に辿り着くんだかねぇ」

なんて、後から駆けつけた祖母が苦笑していたのは良く覚えています。
この村の人は外から来た人にはなかなか手厳しい事もあり、男性は保護したお姉さんのお宅で療養する事になりました。
・・・・・・そういえば父も最初は村の人達から厳しい扱いを受けたように言ってましたっけ。
幾度か村を守る機会があって漸く認めてもらって、そうして母と結ばれたそうです。

男性・・・クライドさんも、最初は居心地悪そうにしてましたっけ。
私からすれば不思議な巻物で消えたり分身出来る面白いお兄さんだったんですけども。
あちらも私達の使う魔法には少なからず驚いていてましたが、何時も優しくしてくださいました。
お姉さんとは暫くしてからお付き合いするようになってたみたいで・・・まぁ当時は子供なので仲良しだなー位にしか思ってなかったのですが。
そういった色々な事情もあってか、同じ村の外から来た父にはよく相談していたように思います。
ご近所含め村の人達との関係が良好なのは大切な事です。狭いコミュニティ内では特にですね。
数年後にはリルムも産まれましたし。あ、でもその頃には村の皆と打ち解けていたと記憶してますが。

「くるくる巻き毛でリルムは可愛いですねぇ~」
「そうでしょう?もう天使みたいで本当に可愛いの!」
「えへへー、おねーたん」
「ひゃあ!お姉ちゃんって呼ばれちゃいました!」
「よく遊びに来てくれるからリルムもの事をよく覚えてるのねぇ」

なんてお姉さんと2人でデレデレしてましたね。
本当に天使のようで愛らしかったんです!柔らかいふくふく頬っぺたで形作られる微笑み。全幅の信頼を寄せた瞳。
髪の色はお姉さんに、瞳の色はクライドさんに似てて。あ、顔は断然お姉さんに似てましたけどね!

リルムが3歳になる頃に、残念ながら私の体調が芳しくない関係で・・・ええ、主に魔導の力の所為なのですが。
咳と圧迫感がまた酷くなってきたので療養を兼ねて魔導の力の弱い土地まで来たと言うことです。サマサは魔導の力が強い土地柄でしたから。
今は父の兄弟であるダンカンおじ様のお宅に手伝いを兼ねて住まわせていただいてます。

「リルム・・・元気だと良いのですが」

別れる時は大泣きでしたからね。お互いに。
今は伝書鳥を使ってやり取りをしてますがやはり距離があるという事もあって頻繁には出せないし・・・心配です。
ああ、でも手紙では最近絵を描く事が楽しいのだと書いてありました。
テーブルに飾ってある似顔絵・・・これは、ずうっと昔にお姉さんに描いてもらったものですが。
ぬいぐるみのフリをしたカーバンクルとまだまだ小さい私の絵。

「お母さんがこれだけ上手ですから、リルムは将来有望ですよね。
そう思いませんか?カーバンクル」

似顔絵の近くにちょこんと鎮座している魔石をつついて笑えば、ふわりと淡い光。
それ、同意でしょうか?それともつついたの怒ってます?
そのどちらもなような気がして私は思わずくすくすと笑いました。

「さて、じゃあ私もお返事を書かないとですね!」

特に近況と呼べるほど面白い事は無いのですが・・・。
さて何を書こうかなと、私はペンと便箋を取り出しました。



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