鳥篭の夢

秘めた想いを



「マッシュ・・・ですか?」
「ええ。最近、何だか仲が良いように思えて」

微笑むおば様にカップを置いて悩みます。
そもそも言葉の意図が見えないのですが。

「まぁそれは確かに・・でも修行するようになってからは割と仲良くさせて頂いてましたよ?」
「ふふ、そうね。では直接的な言葉で言い換えましょうか。
はマッシュの事が好きなのかしら?勿論、家族や友人として、という意味では無くてよ。
彼は不在だけれど、今日の茶葉もマッシュが好きなものよね」

───ッガタン

思わず椅子から落ちかけましたが・・・あの、おば様?

「いえ、確かにこの茶葉はマッシュも好きですが・・・私も好きな味ですよ?
なのでそれとこれとは関係無いと思いますけれど」
「あらあら。顔が熟れた林檎のようになっていますよ。
・・・こちらとしても見ていて焦れるから、教えてくれると嬉しいわ」
「それは・・・」

うう。まぁ一緒に過ごしているのですからバレバレかもしれませんが。

「好きですよ」

観念して小さく呟くように白状すれば、おば様はにこにこと笑みを深めます。

「貴女ももう良い歳ですから、そろそろ縁談を纏めようかと思っているの」
「私の・・・ですか?」
「ええ。は身内だもの。
弟夫婦の代わりに、可愛い姪の縁を探す事は可笑しな事では無いでしょう?
それに貴女の事をよく知ってくれているマッシュは適任だと思ったのだけれど」
「・・・バルガスさんじゃないんですね?」
「あの子にを嫁がせるなんて勿体無いわ」

ピシャリと言い放つおば様に思わず苦笑。
上手くいかない訳ではないでしょうが・・・“結婚のお相手”というイメージがないのは確かですね。
兄妹感覚、とでも言いましょうか。お互いにそんな感じなので。

「でもマッシュはダメですよ、おば様。
本人が地位を捨てたと言っても結局は王家の血筋に連なりますから。
縁談を組もうと思えば国にもきっとご迷惑をおかけしてしまいますし。
───折角自由を手に入れたのですから彼には彼が愛するようなお相手と結ばれるべきでしょう」

それに・・・。

「私はひとりで良いんです」

この力は受け継がれていくものですから。
この地で仮に結婚して、子供が生まれて、その子も魔導の力を持っていたら可哀想です。
村に帰れれば良いのでしょうが・・・この体質は改善する見込みもないですしね。
だったらひとりでいる事がどれだけ安心するか。

・・・」
「ダメですよ?おば様。
いくらマッシュが優しいからって私を押し付けてはいけません」
「そうかしら?マッシュであれば貴女を任せられると思ったのは本当よ」
「お気遣いは嬉しいですが・・・」

マッシュにとっても私は妹のような存在でしょうから。
想いを告げるつもりは毛頭無いのです。迷惑をかけるのも、距離を置かれるのも嫌ですし。
そもそも彼はその手の話は苦手でしょう。たまにバルガスさんに話題を振られても困った顔しかしてなかったように思います。
それに・・・今、傍にいられるだけで私は充分に幸せなのですから。

「でも彼の事は好きなのでしょう?」
「・・・はい」

思い出すのはその太陽みたいな笑顔と朗らかさ。
普段は物事に対して豪快なのに、それとは別に繊細で細やかな気遣いをしてくれるところとか。
包んでくれるような優しさに・・・・ええ、正直に惹かれてはいるのです。

両親が亡くなった時も。魔導の力の事が知られた時も。彼の優しさに私は助けられました。
だからこそ受け入れてくれる懐の深さとその優しさに甘えていてはいけません。
特に魔導の力に関しては本当にご迷惑をおかけしていますから、これ以上彼の負担にはなりたくない。

「おば様。マッシュにはこの事は内緒にしてくださいね。
それに村基準で言えば私はもう行き遅れですから、このまま気ままに独り身ライフを満喫するのです」
「ふふ。分かりました」

そうして苦笑するおば様に、私は上手く笑顔で返せたでしょうか?
さて。そろそろティータイムも終わりにしましょうかね。

「貴女が早く彼の想いに気付ければ良いのだけれど」

ポツリと何か呟く声。
上手く聞き取れなくて首を傾げれば、おば様は首を左右に振ります。

「何でもないわ」
「・・・?そうですか」

良くは分かりませんが、何でもないと言うのであればきっとそうなのでしょう。
重要な事であればきっと教えてくれるでしょうから。

「では、私は先に部屋に戻ってますね」

やる事、出来る事は沢山ありますから時間は有効活用しなくては。
自分のカップをキッチンに片しに行こうとして、背後から溜め息が落ちたような音がしたのは・・・きっと気の所為でしょう。



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