鳥篭の夢

行動の前に



いやぁ、酷い目に遭いました。まさかレテ川を流されるなんて・・・。
服も上着も絞れば絞っただけ水が出てきて泣きそうです。厚着はこういう時に困りますね。
シャドウさんが大きめの布をお持ちだったおかげで仕切り布代わりにして水気も絞れましたが・・。
もし目覚めた時にいたのが2人だけでしたら全身ずぶ濡れのままあちこち行かなければならなかったでしょう。本当に助かりました。

仕切り布の隙間から、ちらりとシャドウさんを覗きます。
クライドさんとまさかこんな所でお会いして、しかも助けていただくとは思いもしませんでした。
インターセプターが私を覚えてくれていたからと思うと、やはり縁とは不思議なものですね。

さて、これ以上は水も出ないでしょう。
出来うる限りの水気を絞った服を再度着て・・・うう、やはり冷たいし肌に張り付く感じがとてつもなく気持ち悪いですが致し方ありません。

「すみません、シャドウさん。布、ありがとうございました」

仕切りにしていた布を畳んでお渡しすれば、何故かじとっとした目線を向けられます。

「あの、シャドウさん?」
「被っておけ」
「わぷ!ありがとうございます・・・?」

まぁ布があった方が暖かいですけどね?
よく分からないですが使えというのならばありがたくお借りしましょう。
返された布を頭から被るようにして身体に巻いて、焚き火の傍に座りました。上着や靴などの乾きにくい物も近くに置きます。

「マッシュはそのままで大丈夫ですか?」
「あ、あぁ」

何度か頷くと、そのままふいと顔を背けられてしまいました。
まぁ見苦しい格好ではあるので仕方ないですが。裸足ですし。
いい年齢してはしたない自覚はありますけれども。
それでもちょっぴりだけ淋しいなぁ等と思っていれば不意にシャドウさんが立ち上がります。

「俺は少し離れる。無闇に動くな」
「はい」

それは勿論。こんな格好では何処にもいけないですしね。
座ったままで見送って、そのまま焚き火へと視線を移しました。
小さな鞄の中身は既に確認済みですからやる事も無いのですよね。
幸い薬品類もカーバンクルも無事でしたが、逆に言えば小さい鞄は最低限の必需品のみですから。
手すさびにするような物は大きい方の鞄に入れていましたし、こんなにも手持ち無沙汰なのは珍しくて時間の使い道が・・・ううん。
まだ水気の残る髪の毛を弄りながら考えて、不意にマッシュへと視線を向けます。
いえ、何してらっしゃるのかなぁ?と、思いまして。
じっと己の掌を見つめて、深刻そうな表情をしてらっしゃって───それについ、お節介にも身体が自然と動きました。

「眉間に皺が寄ってますよ?」
「いて」

えい。軽くつついてみれば少しだけ困ったような顔。

「エドガーさん達が心配ですか?」
「いや。兄貴達なら大丈夫だろ」

ふむ。ではどうしてそんな表情になってたのでしょうか?
考えていれば、マッシュは焚き火へと視線を移しました。

・・・ごめんな。バルガスの事止められなくて・・・師匠も、バルガスも・・・。
2人共の大事な家族なのに、俺は・・・」

両手を強く握りしめて悔いる姿。ああ、成る程。そちらの話でしたか。
それに関してはマッシュがそんな顔をする事はないと思うのですけどね?私は。
先に行動を起こしたのは、そもそもバルガスさんですし。それに・・。

「ちょっと気になっていたのですが・・・。
マッシュ、バルガスさんって土葬してきました?」

予想外の返しだったのでしょう。マッシュは呆気にとられた顔で首を横に振りました。
・・・ですよねえ。だったら尚更───

「バルガスさん、生きている可能性もあるのではないでしょうか?」

イプー達も含めてですが。

「は?え?」
「いえ、バルガスさんと皆さんが戦ったと聞いた場所。私達が通った時には何もなかったので。
野性動物が食べ散らかした跡もありませんでしたから、獣に食べられた線は薄いのかなぁ・・・と。
それにあんなに大柄な人や熊を2匹も短時間で動かすというのもなかなか考えにくくて」

そうする理由もありませんし。なんて続く言葉は意外なものだったのでしょう。
呆気にとられた顔のまま暫く私を見つめた後、くしゃりと顔を歪めました。

「・・・は、はははっ。そっか、そうかもな。
あの人がそんな簡単に死ぬ訳が・・・」
「はい。それに、おじ様だってそうですよ。きっと」

勿論それが真実か否かなんて私達には確認のしようもないですが、信じるのは自由ですから。
だからそんな風に気に病まないでください。なんて・・・そこまでは口には出来ませんでしたが。
僅かに潤んだマッシュの目元を湿ったハンカチで拭えば何時もの笑顔で返してくださいましたから。一応、私としては一安心ですかね。

「ありがとな、
「いいえ」

マッシュが思い詰めないでいてほしくて出た言葉は。
それは、私としてもそうあって欲しいと出てきた願いなのですから。



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