鳥篭の夢

子守唄とハーブの香り



さて。明日の準備を兼ねて鞄の中身を確認しておかないとですね。
布にくるんでいた魔石を取り出して注意深く確認します。んー・・・ヒビも傷もない、ですね。

「カーバンクル、ご無事で本当に良かったです。
貴方がいないと分かった時にどれだけ取り乱した事か・・・」

そう言えばガウは何も言わなかったですし自分では気付いてませんでしたが、状況を思い返せば確実に放電してましたよね。
でもガウ自身も魔物を真似て魔法が使えますから余り気にはならなかったのかもしれませんが。
淡く光るカーバンクルはきっと心配してくれているのでしょう。主に私のうっかりとコントロールの下手さを・・・。

「大丈夫ですよ。ベルトのバックルは補強しますから次は簡単に外れないですからね!」

ちゃんと材料は買いましたから完璧です。ぜひお任せください!
え?コントロールに関して?そこはノーコメントでお願いします。
強いて言うなら要精進ですかね、はい。
後は薬品類の確認を・・・んん、瓶そのものも、薬品も見た目には劣化してなさそうですね。
ただポーションの残数が少し心許ないですから、明日補充しておかないと。
やはり自分で作れないのは不便ですね。かといって一式揃えるには荷物が増えすぎますし・・・。

「ん?」

足音?不意に廊下からぺたぺたと音が響きます。
種類からして裸足・・・ですよね?という事は・・・。

「ウウ・・・ー」
「ガウ、どうしましたか?」

扉を開ければ、熊のぬいぐるみを持って悲しい顔をしたガウが立っていました。

「ふかふか、ひとのニオイ、ソワソワするぞ・・・うぅー」
「成る程」

ガウは獣が原にいましたから普段は外で寝たりするでしょうし。
他にも宿泊客がいる宿屋で、人工的なベッドというのは落ち着かないものなのでしょう。

「とは言え、私達と一緒に来るとなると宿に泊まる機会は多いでしょうし。
寝れるようになった方が良いとは思いますが・・・」
「うー」

悲しい顔で抱きつかれて、トントンと優しく背中を叩きます。
・・・って、また私の匂いを嗅いでませんか?ガウ。本当に恥ずかしいんですよ、それ。

「ガウ?」
「がうー・・・、いいにおい。はなのにおい?」
「花・・・?ああ、ハーブですかね」
「はーぶ?」
「薬になる植物の事です」

手作業が多いので匂いが染み付いてしまっているのか、荷物の確認前に飲んでおいた私の常用薬の匂いかもしれません。

。ふわふわ、ぬくぬく、きもちいいー」
「ゎ、と・・・っ!?」

“はーぶ、いいにおいー”と、そのまま私に体重を掛けてベッドに押し倒すと、胸元にすり寄ります。
いや、部屋が狭いお陰で数歩後ろによろめいただけでベッドにたどり着けてよかったです。広かったら頭を打ってましたね。
お相手が他の方であればこの状況に悲鳴の1つでも上がるのでしょうが、ただ純粋に温もりを求めている性的な意味合いの一切無い触れ方は、別に嫌悪感も危機感も抱きません。
頭を優しく撫でれば、ガウは嬉しそうに笑って頭をぐりぐりと押し付けてきました。

「ほら、ガウ。ぬいぐるみが潰れてしまいますよ?大事な物なのでしょう」

というのも年期の入った汚れ具合から、そうかな?程度に推測しただけですが。
パッと顔を上げてガウはぬいぐるみをジッと見つめます。
アンティークボタンの目が少し緩んで取れかかってますが、あの大暴れからは考えられない程状態は綺麗です。
きっと、普段から大切に扱っているのでしょう。ガウはとても優しい子ですから。

「ガウのだいじ、ぶじだ」

ホッと息を吐いて、ガウはぬいぐるみを抱き締めました。

「この子も連れていくんですか?」
「ガウガウ!つれてく!ガウいっしょ!!」
「ではこの子も蛇の道でも耐えられるように少し補強しましょうね。
丁度、私もベルトを直すつもりでしたし」

どちらにせよぬいぐるみは防水布にくるんだ方が良さそうですが。

「ほきょー??」
「少しだけ強くしておく、という事ですね」
「つよくなる!ガウみたいになるか!?」
「ほんの少しだけですよ。
ちゃんとした材料もありませんから、今まで通りに優しくしてあげてくださいね」
「ガウ!ガウわかった!」

上機嫌にベッドに転がるガウに一度笑って見せて、私は材料を取り出します。

、ここ!!」

ボスボスと力一杯シーツを叩く音。あんまり力を入れると壊れますよ?
なんて思いながらも壊れる前にベッドに入ってサイドテーブルに材料を置けば、ガウは不思議そうな顔をします。
ああ、横にならないからでしょうか?

「すみませんが、私はまだ寝ませんよ。
作業しますので灯りもつけますけれど、大丈夫ですか?」
「わかった!、ぬくい。ガウー」

もしかしたらハーブの匂いが落ち着くのでしょうか・・・?
私の腰に自分の腕を巻き付けると、やはり何度か私の匂いを嗅いで目を閉じました。
それでも何処かソワソワしているのはシーツの感触が慣れないからなのでしょう。

「さぁ。子守唄を歌いましょうか、ガウ。
明日はピカピカを取りに行きますから、もう寝ましょうね」
「がうー」

とは言え私の歌のバリエーションはとんでもなく貧困なのですけれどね。
一番聞き慣れたサマサの子守唄を、声に魔導の力を通して歌います。
これで弱いスリプルの効果が出る筈ですが・・・。

「むにゃ・・・・・・ぬく、ぬく・・・・・・むにゃむにゃ・・・」

あら、早々に寝落ちましたね。
最後は何を言っているかも分からない半分夢現の言葉を残してガウは寝息を立て始めます。
まだまだ子供のあどけない寝顔は、身長差を考慮した上で尚も可愛らしいものです。
それにしても、子守唄を歌って寝かしつけるなんて・・・。

「まるで母親にでもなった気分ですね」

くすりと1つ笑みを落として、私はガウの頭を撫でました。

「おやすみなさい、ガウ。どうか良い夢を」



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