鳥篭の夢

小休憩の一幕



「はい、これで基本的な発声練習は終わりね。
一旦休憩にして、それからダンスレッスンに入りましょうか」
「「はい」」

セリスさんと共にお返事をして・・・いえ、何故私はレッスンにご一緒しているのでしょうか?
ここ数日ずーっと。首を傾げながら、喉に良いハーブティーとお菓子をご用意して小休憩です。

「セリスさんもだけれど・・・さんもお上手よね。
腹式呼吸も出来ているし、身体も柔らかいし」
「それは剣を扱うのに必須だからです。
剣を扱うにも腹式呼吸は必要ですし、稼働域は何かと広い方が動きに幅が出ますから」
「剣士さんって凄いのね」

本職は薬師ですけれどね?
でも柔軟に関しては父から厳しく受けましたから。股割り滅茶苦茶痛かったです・・・。

「え、ダンスには流石にそこまでは求めないわよね・・・?」
「ふふ。そうね。セリスさん位の柔軟性があれば十分だわ。
というより、セリスさんこそ規格外よ?
普通は初めてで客席の奥まで声を響かせるなんて出来ないんだから」
「あれは・・・将軍として命令を遠くまで伝える必要があるから・・・・。
私からすれば兵士でも無い一般人のの方が規格外だわ」
「それはうちが変なだけですよ。両親共にちょっとアレなので」

スパルタなんですよ。普段優しいのに、花嫁修行なり剣術修行なりは一切手を抜かないですから。
おかげ様で花嫁修行は母のお墨付きですし、剣でも戦ってこられてますから。これも優しさと見るべきか否か。
遠い目をする私に、お2人は同時に苦笑して・・・それが何だか良く似ているなぁと、そう感じました。

「それにしてもマリアさんとセリスさんはとても似てますね」

勿論、良く見比べれば違います。身長や筋肉のつき方、声の質、表情や性格。
ですがやはりお2人が並んでらっしゃるとパッと見て似ているなと思うんですよね。
顔の造詣がとても近いからでしょうけれど。背もセリスさんの方が高いですが誤差の範囲ですし。
遠目から見ればどちらがどちらかなんて分からないでしょうね。

「そうでなければ身代わりで囮なんてやらないわよ。
誰でも良いなら今頃に押し付けているわ」
「止めてください、恐ろしい事を言うのは・・・・」

目立つのは苦手なんですよ。

「ごめんなさい。私があんな予告状を貰わなければ、こんな事には・・・・」
「何言ってるの。良いのよ、こっちとしても好都合だもの。
私達はセッツァーに会う為に貴女達を利用している。
貴女は攫われない為に、そして芝居を成功させる為に私達を利用する。どちらにとっても有益だわ」
「そうですね。それに練習も基礎から何からみっちりとお付き合いいただいてますし。
これだけしてもらってますから・・・失敗できませんね?セリスさん」
「・・・・・・そうね。絶対にマリアを演り遂げてみせるわ!」

冗談混じりにセリスさんにそう言えば、ぐぐっと力強く拳を握りしめました。
ふふ、冗談ですよ。気負いすぎたら駄目ですからね?
なんてやり取りをしていれば、マリアさんはくすくすと笑いました。
とても穏やかで、楽しそうに笑う顔。そういえば・・・。

「マリアさんはセッツァーさんの事をどう思ってらっしゃるんですか?」

あんな予告状が届いた訳ですし、流石に無関心という訳ではないでしょう。
質問は意外だったでしょうか?キョトンとした顔でマリアさんは一度動きを止めました。

「・・・どう、と言われると少し困ってしまうわね。
私は彼の事を噂程度でしか知らないもの。でも───」

でも?

「飛空艇で何処までも自由に行けてしまうのは、とても凄いと思うの。
大空で受ける風はどんなに凄いのか。眼下に望む地上はどれだけ素晴らしいものか。
もし出来るのなら体験してみたいとは思うわ。
それに女優としての“マリア”じゃなくて、私自身にこんなにも興味をもってくれているなんてとても不思議な感覚だし。
だから本当は・・・・・別の形で会ってみたかったわね」

ふわりと微笑む姿。まるで憧れるようなその瞳。

「なんて、ダンチョーさんには秘密にしてね。
きっと卒倒しちゃうわ」
「ふふ、本当ですね」
「何だか目に浮かぶわね」

人差し指を口元に置いていたずらっ子のように笑うマリアさんに、私達は苦笑するのでした。

「さ。休憩はここまでにしましょう。
ダンスは昨日のおさらいからいくわよ!」
「はい」
「ええ」

さて。それではもうひと頑張りしましょうか!



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