鳥篭の夢

眠りひめを腕に抱いて



魔導工場から外へ抜けるトンネル内でが寝落ちてから、あっという間に飛空艇まで戻ってきた。
というのもセッツァーが気を遣ってベクタ近くまで迎えに来てたからな。
が寝てる事にも、セリスがいない事にも驚いていたが、何も聞かずにいてくれた。

「とにかく俺は飛空艇を動かしてくる。
マッシュはを寝かせてこい」
「ああ」
「俺も行こう。下手に動かしてを起こすのは忍びないしな」
「ありがとう、兄貴」

礼を言って、飛空艇内を突き進む。
扉の類いは全部兄貴が開けてくれて、部屋まで運んで降ろそうと・・・ん?

?」

すよすよと寝息が聞こえるから眠ってはいるんだろう。
しかし俺の服・・厳密には薄いタンクトップを器用にガッチリと掴んで離そうとしない。
そーっと離そうとすれば小さく身動ぎするからうっかり起こしたかとヒヤッとする。

「ふむ・・よく寝ているな。
仕方ない、俺がセッツァーに伝えてくるからマッシュは残っていてくれ」
「ああ。いやでも兄貴も・・・」
「ん?」

の手を指差せば、兄貴はその先へと視線を向けて・・・どこか嬉しそうに破顔した。
いつの間に握り締めたのか、は兄貴のマントもしっかりと掴んで離さない。

「本当に可愛い妹だな」
「可愛いには同意するが」

常々思うが、妹っていうのは気が早くないか?

「とにかく寝かせられないなら、ロビーにでも行くか」
「そうだな。何時までも女性の部屋にいるものでもないだろう」

そそくさと兄貴と移動して、ソファーに腰掛けてからを横抱きにする。
変わらずぐっすり寝入っているのに離さないよな。どうなってんだか。
やはり眠ってしまったのは魔導の力に関係するんだろうか?
前にもあったよな。の両親が亡くなった時も、暴走した後でこんな風に眠っていたか。
そうしたらちょっとした事じゃ起きないよな。

「あのさ、兄貴・・・」
「ん?」
がセリスの事を庇った時、どう思った?」

魔導研究所で・・ケフカに“スパイだ”と言われてもは動じなかった。
唐突な質問。だけれど兄貴は暫く思案した後、ゆっくりと口を開く。

「甘い考えだとは思ったな。
共にいて情が移ったのだろうが、どうにもは人を信じやすいらしい。
ティナにせよ、セリスにせよ。付き合いは浅い筈なのにこうも信頼を置いている。
逆に俺なんかはスパイだと言われてそのまま信じかけた位だ。
・・・まぁ結果として見る目がないのは俺の方だったがな」
「俺もだよ。少しだけど、でも疑っちまった。
結局セリスには助けられたけどさ。
・・・・だけどは疑わないんだよな。
元々仲間だとか身内だとかさ、自分の懐に入ったやつにはとことん甘いんだ」

そこら辺は兄貴の言った通りで間違いない。
でも本当は・・・アイツは知ってる筈なのに。

「“常勝将軍”ってさ、セリスの事なんだろ?」
「・・・?ああ。帝国にいた頃はそんな異名もあったらしいな」

やっぱりそうだよな。
なんて言葉が頭に落ちてきて、ため息が出た。

が知らない筈無いんだよな。
俺にだってあの時聞こえてた。だから、多分にも・・・」
「マッシュ?」

兄貴が怪訝な顔をする。
一度苦笑して、俺はへと視線を落とした。

の両親の仇・・・それが“常勝将軍”だって噂になってたんだ」
「な・・・っ!?」

立ち上がりかけて、マントの裾を未だに握りしめられている事に気付いた兄貴はそのまま座る。

の事だから誰にも言ってないだろうな。
多分思い出さないようにしてるだろうし、意識もしないようにしてると思う。
目の前にいる仲間が両親の仇なんて・・・そいつに笑うなんて、信用するなんて、俺には真似出来ない」

正直、俺だって最初は多少の殺意に似た感情があった。
ナルシェでカイエンがセリスに食って掛かった際に咄嗟に出れなかったもんなぁ。
の両親を、多くの人や国を手にかけて・・・なんてさ。

「凄いよな。
はさ、それでも仲間だって言い切れるんだ」

本当に、今のセリスを信じてるんだ。
俺も信じてきたつもりだったけど、それよりももっと・・・。

「もしその信頼が瓦解した時は・・・怖い話だな」
「ああ・・・」

考えたくもないな。そんな結末は嫌だと思える自分がいて・・・。
ガレスさん達の仇だと分かってるのに、それでも。
年相応に笑うセリスも、側にいるも、それは何だか楽しそうに見えていたから。

「しかし・・・そうか。おかげで多少は納得がいった。
ナルシェで俺が魔導の力を問い質した時も、協力してほしいと言った時も。
隠していた割にはあまりにも平然としていると思っていたが・・・」
「そういうヤツだからな、は」

全部飲み込んで、笑うんだ。
自分だけが困るなら。自分だけが傷付くなら。
それで大切な誰かを助けられるならそれで良い。
そう思って生きているから。

「もうちょっと自分に甘くても良いんだがなぁ」

寧ろ俺に甘えてくれても良いんだが。
もっと頼ってほしいのに、は何時もそれを良しとしないから。

「甘えられない部分もある・・だろうな。
特に魔法に関しては今まで我々が甘えきっていたのもあるだろう?」
「そうだよなー。
俺なんか特にが使えるのが当たり前だったから甘えてたよなぁ。
俺達も何となく使えるようになってきたし、頼らないようにしないと」
「ああ。そうだな」

少しでもの負担を減らしてやりたい。
確かに足りない部分を補える事は素晴らしい。でも、それは一方だけが負担になってはならないもので。
それだけじゃなくて。対等と迄はいかなくても、多少でも近付いていければ・・・。

「よし、一丁やってやるか!────っとと」
「んん・・・」

やべぇ、起こしたか!?
ずり落ちかけた身体を支えてやれば、もそもそと動いて止まる。

「こらこら。を起こしてどうする」
「悪ぃ・・・大丈夫か?」

そっと顔を覗けば、角度の問題だろうか?どこか幸せそうに見える寝顔があって。
うわ、すり寄ってきたよな?今。・・・ヤバい、普通に可愛い。

「よほどお前は愛されているらしい。
全く、見せつけてくれる」
「あっ、兄貴・・・!」

なんてからかう言葉に、俺は出来る限りの小声で返すしか出来なかった。



inserted by FC2 system