鳥篭の夢

それは後悔故に



「あら、ロック。そんな所でどうされたんですか?」
・・・」

どう見ても気落ちした様子で、床に座り込んでいらっしゃいますけれど。

「・・・・・・セリスにさ・・・」

ポツリ。落ちた言葉に私も隣にしゃがみます。

「俺、守るって言ったんだ。
あの時・・・別行動でサウスフィガロに潜入した時。
セリスは裏切った罪で縛られてて、殴られてボロボロでさ。
見張りが寝こけてる時にコッソリ助けたんだ。
足を怪我してて、走れないって。
だけどアイツはそれでも真っ直ぐ前を見てて、潔く死ぬなんて・・・そんな事言ってさ。
放っておけなかった・・・・・・だから、絶対に守るって・・・・俺、そう言ったのになぁ・・・」

俯いて、震えた声で呟くように落ちていく言葉。

「・・・・・・は、何でセリスを疑わなかったんだ?」
「私ですか?・・・んん、だってあのタイミングで裏切るって微妙じゃないですか。
仮に“反乱を企てた組織へ潜入する”事が目的ならあの場所に連れてくる必要はありません。
私達がラムウさんや魔石の存在を知ったのは偶然ですし・・・。
それにオペラで身代わりまでする必要あります?あんなにハードな練習してまで」

練習をご一緒させていただいた身としては、余計にそう感じますよねぇ。

「・・・・それだけで信じたのか?」
「んー・・そもそも最終目的がリターナーの壊滅ならナルシェの段階で良かったじゃないですか。
目的の氷漬けの幻獣は手に入るし、組織のリーダーであるバナン様も潰せます」

あの手の組織は頭を潰せば終わりですから。
とまでは流石に口にはしませんでしたが。

「流石にあの兵力差に魔導士2人がお相手であれば此方も無事では済みません。
私とティナだけではカバー出来ませんし、セリスさんの魔封剣は魔導士にとって恐ろしいものです。
でも・・・・・・セリスさんは裏切らずに、共に戦ってくださったでしょう?
自分が深手を負うとしてもケフカに立ち向かっていた。あれは嘘には見えませんでしたから」

だから私は信じました。セリスさんを仲間だと思いましたし、今も思ってます。
・・・もしかしたら甘い考えかもしれませんが。
そう続ければ、ロックは首を横に振ってくださいました。

「スゲーなぁ、は」
「まぁ、これは今考えた理由ですけれどね」
「・・・って!今かよっ!!」

はい、今です。

「あの時は、お恥ずかしいのですが・・・・・流石にカッとなってしまって。
セリスさんを見てて、そうじゃないなって直感的には思ったのですけれど。
でもロックのおかげで私なりにそう感じた理由も見つかりました。
ありがとうございます」

1つ笑えば、ロックは呆気にとられたような顔で私を見ます。

は、俺を責めないんだな」
「責めても物事は好転しませんよ?」

何を仰ってるんですか。
とは言え研究所では責めるような言葉を使った気がしますけれど。

「もー。ロックは変なところでネガティブですね?」
「うるせー」
「ふふ。少し位は気楽でも良いと思いますけれどね。
良いじゃないですか。人間、間違える事も失敗する事もありますから。
大事なのは後悔ではなくて、前を見る事ではないですか?」

等と、ちょっと良い事を言ったような気になってみます。
まぁ後悔してはいけないとは言いませんけれどね。
立ち止まる事も、ふり返る事も。それはそれできっと必要な事でしょうから。

は何かあるのか?
失敗とか、間違えた事とか・・・そういうの」
「ぇ、聞きたいですか?」

沢山ありますけれど。

「・・・・・・いや、良い。何か滅茶苦茶ヤバそうだし」
「何という偏見!?」
「冗談だよ。別にあれこれ聞くもんじゃないからな」

それは確かに。話したいかと問われればそれは勿論“否”ですからね。
はは、なんて軽く笑って・・・ロックはまた俯いてしまいました。
・・・もう、ロックは。そんな顔をしている場合では無いでしょうに。

「ロックはテレポという魔法を知ってますか?」
「・・・・・・あの時、セリスが使ってた魔法か」
「はい。あれは“転移魔法”と呼ばれるものなのですが・・・。
実は凄くコントロールが難しい魔法なんですよ。
基本的な対象は自分ですが、他に一緒に転移させたい人や物を設定したり。
転移先も知っている場所でなければとても危ないんです」
「へぇ、そうなのか」
「だって跳んだ先が壁の中とか、身体が柱に埋まってるとか嫌でしょう?」
「ぅゎ・・・それは嫌だな」

でしょう!

「だからセリスさんが使えない筈のテレポを使用したって凄いんですよね。
しかもケフカに捕まっていた私はちゃんと残して!
凄いコントロール力です。もしかしたら私よりお上手かも・・・・」
「それはが大雑把なだけじゃないのか?」
「・・・・・・ロックって私に対してちょいちょい失礼ですよね?」

コントロールが下手なのは認めますが、大雑把までは許容出来ませんよ?
ジトッとした目線を向ければ“悪ぃ悪ぃ”なんて悪びれない返答。

「そうまでしてロックを助けたかったんですから。
次にセリスさんにお会いできたらお礼から言おう位の気概は無いと困ります。
・・・・・・ですから、もう沈んだ顔をするのはオシマイにしましょう?」
「・・・ああ、そうだな」

むに。とロックの両頬を緩くつまんで横に引っ張ります。
それにぎこちなく笑って返されて・・・・まぁ、今はそれでも大丈夫でしょうか。
なんて。私も思わず苦笑しました。



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