鳥篭の夢

郷里の星空の元で



「はー・・・沢山食べてしまいました」

久しぶりに誰かに作っていただいたご飯なので調子に乗ってしまいました。
なんて、ちょっと休憩がてらお散歩しに外に出ます。
と言うか、途中から村の人達も集まって軽い宴会になってしまいましたが・・・・。
巻き込まれたロックは大丈夫でしょうか?

「ティナはリルムと寝てしまいましたし・・・・」

気付いたら“ちゃん”付けも取れてましたから、きっと仲良くなったのでしょう。
リルムにとってもティナにとっても交遊関係の幅が広がるのは良い事です。
等と暢気に歩いていれば、眼前に見覚えのある黒装束が目に入りました。

「・・・・こんな所でどうした?」
「シャドウさんこそ」

人の多い場所は苦手でしょうか?それともサマサの村の皆さんだから・・・?
問いに問いで返したそれに、答えは勿論ありません。仕方ないですねぇ。

「近くに祖母の家がありますからね。
後で少し見てこようと思いまして」
「そうか」

軽く聞いてみたら“そのままにしてある”との事ですから。
懐かしさ半分、もしかしたら何かあるかもという期待半分です。
私の住んでた家はもう別の方が住んでますが、引っ越しの際に持って行けずに残していた物は祖母の家に置いてくださってるみたいですしね。

「リルム、大きくなってましたね」
「・・・・・・」
「私なんて後少しで身長が追い抜かされそうでした」
「・・・・・・」

くすくすと笑って見せますが、あくまでも返ってくるのは沈黙です。
仕方ありませんか。もう今はクライドさんではないとの事ですもんね・・・?

「まさか大三角島に来るとは思いませんでしたが。
・・・シャドウさんは、リターナーと帝国の和平の件は知ってますか?」
「ああ。今後は各国にも和平を申し入れるらしい。
・・・とは言え鵜呑みにするにはキナ臭い話ではあるがな。
幻獣との和解などそれこそだ。何か裏があると考える方が普通だろう」
「ですよねぇ・・・?」

やはりシャドウさんもそうお考えでしたか。
そうなると尚更、帝国に残った皆さんが心配になります。
魔法も・・いえ、魔法に頼らずともお強い方々ではありますけれど。

「俺は明日から別行動にする」
「え?」
「何か嫌な予感がする。
探りを入れてみるが・・・そっちは任せるぞ」
「はい。どうぞお任せください」

なんせ勝手知ったるお散歩コースですからね。

「あ、でも出来れば早く帰ってきてくださいね?
リルムがまだインターセプターを描いてる途中ですから」
「・・・・・・気が向けばな」

無理とは言わないその優しさに、ふふ、と小さく笑みが零れて。
ああ、やはり優しいですよね。シャドウさんは。
お会いする度に思います。クライドさんの頃と変わらないのに・・・。

「・・・ん?」

何だか焦げ臭い・・?

「何だ?」
「あちらからですかね」

嫌な予感に私とシャドウさんは走り出します。
ストラゴスさん宅のご近所にある大きな家・・・確か、倉庫でしたっけ?
そこにボムの群れが家に火をつけて、今まさに侵入しようとしている所でした。
少し離れた場所には他の・・でも似たような炎の魔物がいますね。
見ていれば、その魔物からボムが生まれて・・・・・・んん、どうやらあれが元凶のようです。

「あの魔物が原因みたいですね。シャドウさん、お願いしても?
私はこの家を消火してしまいます」
「ああ」

途端に、闇に溶けるようにシャドウさんは姿を消しました。
何体かいらっしゃいますが、彼ならば大丈夫でしょう。

さて。魔導の力を練り上げて、頭に浮かぶ詠唱を正しく唱えていきます。
あまり使いなれない魔法ですから正しく行使しなくては。
まだ火は小さいですがこれ以上広げる訳にはいきませんからね。

「ブリザラ───っ!」

冷気が凝縮されていき、家と側にいたボム達が一気に凍りつきました。
うんうん。効果は上々ですかね。これならきっと中の火も消えている事でしょう。

「・・・・・・やり過ぎだ」
「あら、そうですか?
でも何処まで火の手が及んでいるか分かりませんでしたからね」

念の為。そう付け加えれば、何だか呆れたような目線。

「だからと言って家ごと氷漬けにする必要はないだろう」
「出力は弱めで範囲を広くしてみましたからすぐ溶けますよ」

ほら、もう外気で溶けてきてますし。
あの家は元々備蓄倉庫ですから誰かがあの中にいる・・なんて事も無いでしょう。
・・・・・でも水濡れ厳禁のものがあったら困りますよね。
念の為、明日村長さんに相談した方が良さそうです。

「・・・・・身体に負担はないのか?」
「勿論ありますよ。
でも使う分にはそこまででもありませんし、まだ少々の虚脱感位ですかね?」

この程度であれば一晩寝れば治ります。
あ。その深いため息は一体何なのでしょうか?シャドウさん。

「早く寝ろ」
「ふふ、ありがとうございます」

何時もより私に優しくしてくださるのは、この場所だからか2人だけだからか・・・。
さて、どちらでしょうね?
私としては、どちらでも嬉しいのですけれど。

「俺は先に宿に戻るぞ」
「はい。後でロックにお伝えしておきますね。
ありがとうございました、シャドウさん」

振り返る事無く去っていくシャドウさんの後ろ姿を見送って、私はストラゴスさんのお宅に引き返しました。
祖母の家はまた後日でも大丈夫ですが・・・・そろそろロックが心配ですからね。


ー・・・」
「はいはい。大丈夫ですからね」
「うぃー・・・っく。セリスがさぁー」
「ええ、分かってますよ」
「おー・・・」

結局。宴会に巻き込まれそうになったのを回避しつつティナをお願いして。
すっかり出来上がったロックを回収して介抱してから、私は漸く眠れたのでした。
なんて。ロックも村の皆さんのお相手、お疲れ様でした。



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