鳥篭の夢

隠れた家にて



暖かい力。決して害するものじゃない。チカチカと焦るような力の反応。
それから鈍い身体の痛みに意識が浮上する感覚。

『────・・・ィナ!起きろ、ティナッ!』

遠くから響くような声。誰の・・・?

『頼む、起きろっ!が死んじまう!!』
「・・・っ!!?」

が!?
ゾッとする言葉に跳ね起きれば眼前にいたのは・・・確かカーバンクル・・だったかしら?
何度かが話題に出していた幻獣よね。ナルシェでも私を止めようとしてた。
焦ったような表情が、現状がとても良くないのだと理解出来て混乱するままに視線をさ迷わせる。
と、全身血塗れで倒れているを見つけて慌てて駆け寄った。
呼吸は浅くて、顔は青白い。吐血したのか床と口の周りも血液で汚れている。
まるで皮膚が裂けたような傷がみるみる増えていって血が噴き出して・・・これは、一体何?

・・・待ってて、今ケアルを・・・っ」
『待て、魔法は使うなよ!・・・・これ以上魔力が干渉すりゃマジで死ぬ。
体内の魔力量が限界を越えてっからまずは薬だ。鞄の中に薬が入ってる!』
「薬・・・・・・?」
言われるがままに鞄の中を見るけれど、色んな種類が入っていて良く分からない。
どれがの飲んでいる薬なの?いつだって何気なく飲んでいたから瓶やラベルなんて見た事なかった。どうしよう?

『これだ、これ!この緑の・・・』
「これ?」
『そうそう、それだ!急げ!』

カーバンクルの指示に従ってそっとの身体を抱き起こして口の中に薬を注ぐ。
意識が無い中での投薬だからか薬が唇の端から零れ落ちて、気ばかりが急いた。

『慌てんな。少しずつは飲めてるし、落ち着いてきてる』
「ええ・・・」
『身体の崩壊もおさまったな。・・・・・・ふー、助かった。ありがとな、ティナ。
この姿じゃ物には触れねえし、魔導の力で動かせなくは無いけど細やかな動きとか難しいしなぁ。
それにへの負担が大きすぎる・・お前が半分幻獣で反応出来たから助かったぜ』
「そうね。を助けられたもの」

嫌味のない、ただ事実としての“半分幻獣”という言葉がストンと心に落ちて不思議な感じ。
別にそれが悪い意味ではないって分かるし、当然のように私を受け入れている言葉にも聞こえる。

「・・・カーバンクルは、私が変だとは思わない?」
『あん?何だよ急に』
「だって私は半分人間でしょう?
幻獣からすれば人間とのハーフなんて良いものじゃないんじゃないかと思って」

不意に考えた事。幻獣を力とした人間達。人間が原因で幻獣界へと逃れた幻獣達。
誰も言わないけれど、きっとどちらから見ても私は中途半端な存在だから。
幼い記憶にも酷く扱われた記憶は無いけど・・・どう思われていたのかしら?なんて。
チラリとカーバンクルを見れば明かに呆れた顔を向けられた。

『知るかよ。んな事言えば元の姿から変質した幻獣のがよっぽど変だろ。
それに幻獣でお前に対して悪感情を持ってるヤツなんていねぇし。少なくとも俺は知らねぇぞ。
人間に対して警戒心はあるが、あの人間もちょっと普通ぽくなかったしな。性格が』
「お母さんの事?そうなの?」
『底抜けのお人好しそうだったな。さぞかし人間界は窮屈だったんじゃねぇか?
俺は一回しか会った事ねぇが何かずっと笑顔だったし、折り合いも悪くなさそうだったぞ。
ま。俺はお前も含めて一度見たきりだから名前も知らなかったけどな』
「・・・そうね。私も幻獣界の事とか思い出したけどカーバンクルを見た記憶はないわ」
『興味なかったからな』


────・・・キィン


強い、力?
ずっと、遠く。だけど何かを心配するような。

『っち!あのバカ野郎共!折角封じた封魔壁の扉をこじ開けやがった!!』
「扉を!?」
『ケフカの変な技とやらでユラ達が全滅したからな。
流石のアイツらも怒り心頭ってとこだろうが・・・っ、悪手過ぎだろ。自殺する気か!』

ドクドクと心臓の音が響いて・・・胸が苦しい。ユラが全滅・・・幻獣達が?
そうだ。の事に気をとられてたけど・・・そうだったわ。私達、ケフカに襲われて!?

「・・・ケフカはまだこの村にっ?!」
『ああ、いるな。顔を出すなよ。アイツに気付かれるぞ』
「でも、このままじゃ幻獣達が・・・っ!」
『お前と俺だけじゃどうにもなんねぇよ』

突きつけられた言葉に愕然とする。

どうにもならない。

・・・いえ、実際に太刀打ち出来なかったから私達は此処にいるのよね。
しか見えてなかったけど、ロック達や、リルムに・・・レオ将軍迄も倒れてるもの。

『俺が出来た事なんてのはお前達をテレポで此処に移動させた位だ。
アイツ、相当おかしくなってやがるな』

“あんな魔力を有してりゃ、そりゃ狂って当然か”とカーバンクルが続けて舌打ちする。
強い力。それが一気に広がって、腕の中のがもう一度咳き込んだ。

『ティナ、にもう一本飲ませとけ。
・・・どうやらユラん時とは数が違うぜ』
「・・・っ!」

どんどん近付いてくる。怒りと悲しみが渦巻いた感情。
コントロール出来ない力をそのままに、此処へ・・・。
慌てて先程に飲ませた薬をもう一本取り出して口へと運ぶ。ゆっくり。慌てずに。
その間にもケフカへと強襲した幻獣達が・・・その力をまるで封じられたように無力化・・かしら?どうなっているのかは分からないけれど。
力を削いで、そうして沢山の魔石になっていくのが感じられて、何も出来ないのが悔しくて・・・。
遠くで響くケフカの笑い声。それが遠ざかった所でカーバンクルは深く息を吐いた。

『よし、行ったな。とりあえず俺は魔石に戻るぜ。
これ以上はに負担もかけるし、俺も限界ギリだしな。
そこら辺の奴らはノびてるだけだからケアルとかで何とかなるだろ。
も安定したみたいだし、俺が消えてから魔法で治してやれ』

“あー、疲れた”と伸びをする姿に、私は思わずくすりと笑みを溢す。

「ええ。ありがとう。
でも・・・・・帝国は、ケフカはどうしてこんなにも力を欲しがるのかしら?
私みたいになったって・・扱いきれないだけなのに」
『人間なんてヤツは元々そんなもんだ。遥か昔から力を求め、争いあう。
その為に同族を犠牲にする事も、力を得る為に俺達を利用する事も厭わない。
・・・ったく。その都度巻き込まれるこっちの身にもなれってんだよ』

はー、と深くため息を吐くカーバンクルに、つい私は首を傾げた。

「カーバンクルは人間が嫌いなの?」
『俺は平等に大抵の生物が嫌いなだけだっての。
つか俺が好きだって言えんのは位だろーな』
「・・・カーバンクルはを愛しているの?」

さっきからを遠くから見つめる瞳はとても優しいから。
の事を想っているように見えたのだけれど。
告げた言葉にカーバンクルは驚くほど冷たい瞳を私に向けた。

『愛ぃ?んな高尚なもんじゃねぇだろ。何でも結びつけんな。
残念だが俺にはそんな感情はねぇよ』
「無い?」
『元々、幻獣なんてのは三闘神の戦う為の手駒だ。駒に感情なんてものは不要だからな。
まぁ三柱が眠りにつく前に感情を与えられたおかげで生き物としてはだいぶマシになってるがな。
最近は代を重ねて感情豊富な奴らも結構いるみてぇだし』

“マディンもそうだろ?”なんて言われて・・でも少し反応には困る。
思い出そうにも幼い頃の記憶しかないし、魔石のお父さんとはあまり話せる訳でもないから。
というか、魔石なのにカーバンクルが出てきすぎなんじゃないかと思うわ。

『ま、幻獣にも色々いんだよ。ティナが気にする事じゃねぇ。
・・・・・・の事、頼むな』
「ええ。頼まれたわ」

任せて!と胸を叩けば、先程の冷たい表情がまるで嘘みたいに破顔した。



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