噂の旦那様と
「そだ!おねーちゃん、マッシュって誰?どの人??」
“いるんだよね?”と瞳を輝かせて訊ねるリルムに幾度か目を瞬かせ、彼へと視線を向けました。
ガウのお相手をしてくださってますが・・・お呼びしても大丈夫でしょうか?
「マッシュ。少しだけお時間良いですか?」
「ん?どうした、」
「ガウー?」
ガウを肩車したまま此方に向かって来るマッシュに、リルムは目を丸くします。
「彼がマッシュです」
「えぇー!キンニク男がおねーちゃんの旦那様なの?!」
「まだ旦那様じゃありませんってば」
「ああ、そういう事か」
意図を汲んだと頷くマッシュに、すみませんと苦笑すれば“大丈夫だ”と笑顔を向けられます。
ガウは相変わらず肩の上で不思議そうにしていますが。
「ほう。お主が・・・・・」
驚くリルムとは違ってしげしげとマッシュを眺めてから、ストラゴスさんは1度頷きました。
「うむ。確かにが好きそうな────」
「ストラゴスさんっ!!」
急に何を仰いますかっ!!?
「お主、昔から結婚するなら強い人が良いとか言っておったゾイ」
「それ小さい頃の話ですよね!」
いえ。マッシュは本当に頼りになりますし、それも確かに惹かれた理由の1つですけれども!
それだけじゃなくて・・あ、いえ。今はそんな事を考えている場合ではなくてですね。
マッシュが照れたように頬を掻いてらっしゃるのも、逆にとんでもなく恥ずかしいと言いますか。
「ふむふむ。良い体格じゃから花婿衣装は一から作った方が良さそうじゃの。
今度採寸でもするとするか」
「ん?」
「あの・・・村で式を挙げさせようとしないでくれませんか?」
多分、挙式をするのであればフィガロになると思いますし。
「何じゃ、こっちでせんのか?だって花嫁衣装に憧れとったじゃろう?
刺繍はこうしたいとか作ってみたいとよく言っておったゾイ」
「だから子供の頃の話ですってば!」
「ふむ。ならもう興味はないのかの・・・?」
「ありますけど」
即答しちゃう位にはありますけれども。
「でもそれは私達で決めてしまうものではないと思うのですけれど。
流石にフィガロを蔑ろには出来ないでしょう?」
「そうか?俺はどっちでも良いけどなー。
折角の式だし、が納得する形にしたら良いんじゃないか?」
「キンニク男やっるぅ~。
良かったね、おねーちゃん!キンニク男、サマサで式やるって!
えへへ・・やったー!ご馳走いっぱい!あ、揚げドーナツも食べれるよねっ!
あれ結婚式しか出てこないから本っ当に楽しみ~!!」
「ごちそう、うまいかっ!!」
「もっちろんっ!」
「え、ちょっ・・・勝手に進めないでください」
そして後半ご馳走の話になってます。
眼前に降りてきたガウとリルムが仲良く両手を繋いで上下に振ってますけれども。
こんな場面でガウとリルムが意気投合するとは・・・っ!!
「それは俺としても楽しみだが・・・。
フィガロ城での披露宴位は開かせてもらうぞ?マッシュ。
流石にこちらで何も無し、という訳にはいかないからな」
不意に入ってくる声に振り向けば、エドガーさんの姿。
いつの間に。そして何時から聞いてらしたんですか?
それにマッシュは僅かに困ったように眉を下げて乱暴に頭を掻きました。
「あー。やっぱそうなるかい?兄貴」
「流石にな」
「はそういうの慣れてなさそうだし別に良いんじゃないか?」
確かに。流石にパーティーの類には参加した事がありませんし。
私達の婚姻での披露宴って事は注目されますよね?
「呼ぶのは最低限にするとしても・・・しない訳にはいかないだろう」
「あー・・・そっか。ごめんな、。
それだけはちょっと勘弁してくれるか?」
「・・・・・・勿論、頑張ります。
ただ早めに色々教えていただいても良いですか?」
礼儀作法とか色々。
人前に出るのであれば失敗だけはしたくないですし。
「勿論。を完璧な淑女にする事を誓おう」
「ありがとうございます」
「ひろうえん、なんだ?それもうまいか?」
「多分、美味しいものも出るとは思いますよ」
「うまい!」
キラキラしたお顔をしてらっしゃいますけれど・・・・。
流石にガウは出れない気が。ドレスコードとかありますしね?ほら。
「え?え?どーゆう事?お城?披露宴??」
「エドガーさんはフィガロの王様で、マッシュはエドガーさんの弟ですからね」
「・・・えっ!色男が王様っ!?で、キンニク男のお兄さんなのっ??」
呼称がちょっとアレすぎませんかね?リルム。
ですがエドガーさんは特に気にした様子でもなく、微笑みをリルムに向けました。
「ああ、そうだよ。私達は双子なんだ」
「ふーむ。言われてみれば似ておるが・・・」
「えー?嘘だぁ」
半目でジトッとした目線を向けるリルムに、私はくすくすと笑います。
体格差がかなりありますものね。とはいえエドガーさんも相当鍛えてらっしゃいますよ?
アレだけの機械を軽々担いで移動してらっしゃいますし。
感嘆の声をあげるリルムを見て・・・そうだ、と私は思い至ります。
「というか、ストラゴスさん。私よりもリルムはどうなってます?
サマサの村でお相手を探すつもりなら、もう後何年かしかないですよね」
「まー・・・そうなんじゃがの。こんだけ口の悪い孫じゃゾイ。
花嫁修行も捗らんし、相手が逃げそうじゃのう」
「ちょっと!余計なこと言わないでよ、クソジジイ!」
「あいた!」
流石に鉛筆を投げてはいけませんよ?リルム。
「そりゃ、絵を描くのが好きだから今はお手伝いあんまりしてないけどさー。
でもでもリルムまだ10歳だし、お相手を探すのだって後5~6年位してからでしょ?
だからまぁちゃんと花嫁修行するのは、もうちょっとしたらで良いかなーって」
「花嫁修行に終わりはありませんよ、リルム」
ふふ。私もまだ一通りは完了したとはいえ完璧とは言いがたいですからね。
何時だって精進あるのみ、なのです。
「が言うと奥が深いよな」
「あれだけ出来ても終わっていないのか・・・」
「母親がスパルタじゃから仕方ないゾイ」
“十二分に出来とるんじゃがのう”なんて仰いますが・・・いえ、まだまだです。
母も祖母もどれだけ偉大な事か。お嫁さんになるのって本当に大変です。
「リ・・・リルムもそろそろしようかな。
おねーちゃん、色々教えてくれる?」
「私で良ければ勿論、構いませんよ。
簡単な事から始めてみましょうね」
「・・・うんっ!」
ぱっと顔を明るくさせたリルムに、私も笑みを向けるのでした。
「またみたいな奴が増えるのか?」
「恐ろしいものだな、魔導士の村・・・」
「ガウ?」
もう!エドガーさんもマッシュも聞こえてますからね?