鳥篭の夢

秘密の近道



「そういや俺、気になってたんだけどさ」
「はい?」

何でしょう? 唐突に口を開くロックに私は首を捻ります。

「子供の頃のがお散歩コースにしてたって言うからすぐそこかと思ったけど。
実際の入り口まで結構距離あるよな?まだ着かないし」

ギクリ。 僅かな動揺に私の肩が跳ねました。
聳え立つ山々は村からもすぐに見えますが、正規ルートの入り口はぐるっと回りますからね。

ええ、“正規ルート”は。ですが。

「そう言えばそうじゃな。
その所為もあって、わしらはこのお転婆がまさかあの山におるとは思わんかったゾイ。
子供の足では散歩するにしても時間がかかりすぎるじゃろ」
「そうよね。それに子供の立ち入りを禁止していた位だもの。
はどうしていたの?」
「実は秘密があるんです。
少し戻るんですが、寄り道しても?」
「・・・?おう」

ジトッとした目線を向けるストラゴスさんに私は僅かに苦笑して見せます。
1度元来た道を戻りながら遠目に村が見える箇所に辿り着いて───えぇと、此処でしたかね。
まるで抜け道のように山の麓にぽっかり空いた穴。
とは言え一見すれば動物の巣穴のような形状のそれは、今でも私やティナのように小柄な女性程度ならば通れるでしょうか。

「此処です」
「って、どう見ても動物の巣穴なんだが」
「元々はそうなんだと思いますが・・・どうやら途中で中の洞窟と繋がったみたいなんですよね。
未だ残っている事に少し驚きましたが。此処を通ると近道になるんです」
「私でもギリギリ通れる程度ね」
「はい。私は荷物も多いですからもう通れないでしょうね」

荷物を捨てれば通れますが、そうまでして使う理由もありませんし。
ロックは腰をかがめて穴の奥を覗き込みますが“ふぅん”と納得するような声を上げると立ち上がりました。

「それ以前に俺じゃ通れないしな。
なるほど、子供ならではの秘密の近道ってやつか」
「ですね」
「ふーむ。こんな抜け穴があるなぞわしは知らんかったゾイ。
というか普通は通ろうなんぞ思わんじゃろうしのう。流石、お転婆娘じゃ。
じゃが、リルムが知ったら嬉々として通りそうじゃのう」
「あぁ、確かにそうかもなー」
「あはは」

確かにそうかもしれませんね。

「ま、謎は解けたし今度こそ出発点するか!」
「そうね」

うんうんと何度か頷き合って、私達はまた目的地へと歩き始めました。
まさかそれをこっそり村を抜け出していたリルムに聞かれていて、更にそこを通って先回りされていたなんて、私達は夢にも思わなかったのですけれど。



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