鳥篭の夢

崩れた世界の終わりから



「此処は、どこだ・・・?」

呆然と言葉を落として、それから妙に軽くなった己の腕を見た。
つい先程まで抱いていた筈のの姿は無くて・・・それどころか周囲に誰もいない。
他の仲間達も。近くに倒れている様子もない。此処にいるのは、俺だけ・・・?
嘘だろ・・・っ?どこいった、!?
あんなに血塗れの身体で、冷たい身体で1人だなんて死んじまう!

!!」

変な衝撃はあったが痛みはなくて、テレポを使ったんだろうって事までは分かる。
飛空艇が真っ二つに割けて、ヤベェって思った所でがあんな事を言って────。


“愛してますよ、マシアス”


常であれば大喜びしただろうそれは・・・・・違う、あれじゃあ最期の別れの言葉だ。

!どこだ、ッ!!」

考えを振り払うように声を張り上げても、勿論返事はなくて・・ただ気ばかりが急く。
と、さっきから手の中で激しく明滅していたカーバンクルの魔石から強い力が放たれた。

『ボサッとしてんな!阿呆!
さっさと俺の魔石を壊せ!』
「は?」

どうしたカーバンクル?相変わらず突然出てきて、いきなり変な事を言い出してるが。

「いや、待て。魔石を壊すって・・・流石にお前もただじゃ済まないんだろ?!」
『だから、ちょっくら死んでの魂を繋いでくるっつってんだ!
んな事もわかんねぇのか!?ったく、脳みそまで筋肉にしてる場合じゃねーぞ!』

いねぇとめちゃくちゃ口悪いな!
と言うか、何で分かると思ってんだ?!阿呆はお前だろう!

が最期に使った魔法がテレポで良かったぜ。
今ならまだ“繋げる”!分離した魂と身体を定着させられる!
魔力の残滓を辿ってんとこまで行けば何とか出来る筈だ!』
「よく分からんが、助けられるって事か!?」
『そういうこった!だから早く俺の魔石を壊せ!』

から託された物。彼女がずっと大切にしていた親友そのもの。
それを壊す?だが・・・今は、賭けるしかないか!

「悪い、頼んだぜ!」
『おう。この俺に任せとけよ!』

思ったより軽い力でヒビが入ったと感じた途端に魔石が砕け、カーバンクルの姿が消える。
サラサラと手の中で砂状になって落ちていく魔石は・・・それでも一欠片だけ手の中に残った。
淡く光を残しているソレはまだアイツが生きているという証明だろうか。

「・・・で、俺はどうしてたら良いんだ?」

の無事を知る手段とかあるんだろうか?
多分、アイツはの事しか考えてないだろうから気にしてもないんだろうが・・・。
俺もそうだったしな。うん。

「とにかく、俺は俺の出来る事をしてろって事で良いんだよな?」

なら、やるべき事は簡単だ。
世界中に降り注いだ魔導の力。ざっと周囲を見渡しただけでも相当地形は変わってる。
木々は薙ぎ倒され大地は引き裂かれて・・・どの国も被害は相当なもんだろう。
だったら修行しながら世界を巡って皆を探す。そんで、も見つける!
後はガストラから世界を取り戻せば完了だ!

「よしっ!一丁やってやるか!!」

拳を己の掌に打ち付けて、頷く。
カーバンクルの魔石の欠片は布にくるんで失くさないようにしておいた。
多分、こいつは失くしたらいけないだろうから。そんな気がする。

それからまずは現状の把握だと近くの町へと足を運んだが・・・酷い有り様に息を飲んだ。
家屋は倒壊して、瓦礫が辺りに散らばり、多くの住人達が怪我をして地面に転がっている。
子供達や親だろう者達がまるで亡霊のように身体を引きずり、泣き叫びながら誰かの名を呼んだ。

何だ?これは。

唖然として、それから一気に怒りが湧く。
確かに被害があるとは思ってた。だがそれは、こんな地獄絵図みたいな光景じゃなくて。
・・・・・・ガストラの求めた世界がこれか?
壊れた世界と、泣き叫ぶ人々が・・・アイツの求めた世界だとでも言うのか!?絶対に許せねぇっ!

とにかくと、怪我人を片っ端から手持ちの回復薬と魔法で治す。
ケアルとかその程度だが・・・・・・覚えといて正解だな。少しは役に立てる。
瓦礫の下敷きになった住人を助けだし、治療を施し、かろうじて無事な寝台まで運ぶ。
夜が更けて作業を中断せざるを得なくなるまで俺はひたすらにその作業に没頭した。
町の人達の好意で食料を少し分けてもらい晩飯にして、流石に寝る場所まで借りる訳にはいかないから町の隅のマシな場所にテントを張る。

・・・・・・っくそ。あん時、ガストラの野郎を止められていたら・・・。
いや。魔導の力で拘束された時、単純な力では指ひとつ動かせなかった。
ダメだ。まだ俺には力が足りない。ガストラに対抗出来る力が・・・。


『うへー、疲れた!』
「お。おお?」

荷物が光ったかと思えば、ふわりと魔石の破片が浮いてカーバンクルが姿を見せる。
何つーか、思ったより普通に戻ってくるんだな。

「お前、何か身体の色とか変わってないか?」

というか変わってるぞ。
青かった被毛が何か金やら銀やらに輝いて見えて・・・それは至極見覚えのある色合いだ。
額の宝石みたいなのは赤いままだが、その瞳はまるで揺らめいた湖みたいな不思議な青色で・・・。
後、今までは半透明に向こう側が透けていたのに今は実体があるように見えるし。

『お。マジか?マジだな。よしよし。
ちゃんと繋がってる証拠ってヤツだ』

宙に浮かんだまま、くるくるその場で回りながら姿の確認。
満更でもない顔をした後そのまま眼前に来たかと思えばペシペシと軽い力で俺の頬を叩いた。
触れるし・・・つか、肉球あるのかコイツ。見た目は小動物だからおかしくはないが・・・。

『たく。念入りに砕かねぇからこっちに戻ってきたじゃねーか。
と一緒にいてクッキー食べ放題するつもりだったのに予定が狂っちまった。
・・・・・・まぁおかげで、これなら全部片付けても何とかなるな。
っち。あれの手のひらの上ぽくて気にくわねぇが仕方ねぇか』

何かゴニョゴニョ言っているが、意味はほとんど理解できない。
砕かなかったから戻ってきた?何でクッキー食べ放題なんだ?
何が何とかなって、誰が手のひらの上で・・・?サッパリ分からん。
と。唖然としたままの俺に気付いたカーバンクルは、ニマリと悪い顔をして近づく。

『んなアホ面してる場合かよ。は生きてんだからとりあえず安心しとけ。
お前ががいなくて焦りまくってたのは、ちゃんと本人に伝えといたからな』
「な、あ・・・っえ?!くそ、何でそれ言うんだよ!」
『そりゃお前の事を心配してたしなー』

楽しそうに笑うカーバンクルは恨めしいが、それでもが生きている事実は正直救われた。
本当に・・・あん時のの状態は最悪だったからな。あー・・・良かった。

『んで。まぁ、は無事だ。
ちーっとアレな事もあったが、まぁ問題ねぇしな』
「アレ?」
『アレだ、アレ。深く気にすんな。どうにもなんねーし。
で。お前はを探しに行くのか?』
「情報は探すつもりだ。だが俺なりに出来る事はしていくつもりでいるけどな」
『ほー。意外だな。
あんなに取り乱してたのに、今すぐ迎えに行くんじゃないのな』
「いや、会いたいのは当然だが、どうやって居場所を探すんだよ」
『・・・・・・それもそうだな』

だろ?

「それに、こんなに酷い有り様の町を放っては置けない。
多少でも手伝いながら、地道にや皆の情報を集めていくつもりだ」

修行だってやり直さないとな。まだまだ俺はもっと強くなんねえと。
これじゃあも兄貴も・・フィガロだって守れやしねぇ。

『ふーん。ま、そしたら俺もちょっとは手伝ってやるよ。
こっちに戻ってきたってのも何かの“縁”だろうからな』
「縁・・・」

何だかを思い出して、胸が締め付けられるような心地になる。
誰かとの繋がりを誰よりも大切にしていて、よく“ご縁が・・”と話してたっけ。

『お前。そこで辛気くせー面すんなよ』
「ん。悪ぃ」
『んで。簡単に謝んなっての。
あー・・・・。まぁ、ほらさ。俺が生きてる限りは死なねぇし。
うん、安心しとけよ。それにお前はお前に出来る事もあんだしさ』

悩みながら紡がれる言葉。
それが自分を心配して出た言葉なのだと理解して、思わず笑みを溢せば、やたら機嫌の悪い顔をして・・・・・・おお?

『よし。直伝』
「は?────っいっでぇっっ!!?」

嘘つけ!絶対に直伝じゃねぇだろ!?
明らかに出力高いぞ!サンダー位の威力あるだろ、めちゃくちゃ痛かったしっ!!

「おまっ!それ・・・・っ!」
『今度さっきみたいな面したら電撃だからな。
直送の魔導の力だからな・・・一歩間違えたらかなりヤベーぞ』
「何だよ、その脅しはっ!!」

の魔力がヤバイのは知ってるけどさ!
ああ、くそ・・・!それでも何かちょっと気持ちが浮上して・・・・・・。
悔しさに、俺は笑いながらカーバンクルの頭を撫でてやった。



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