その切っ掛け
「はぁ・・・」
わいわいと終業の喧噪が漂う中に、ただ1つ溜息。
あぁ、ダメだ。溜息ついたら幸せが逃げちゃうのになぁ。
でもわざわざこんな遠くの学校に通うの止めとけば良かったかも。
「、何溜息ついてんだ?」
緩い感情の声。それに目線を向ければ、同じクラスで同じ先祖返りの反ノ塚の姿。
机に片肘をついて頬杖をついている状態でぼんやりした表情をアタシに向けている。
「これから帰るまでの道程を想像してげんなりしてたの」
「はは。実家遠いんだから、も妖館に入居すりゃ良いのに。
何なら俺の方から親父さんに言ってやろうか?」
面識なくないし、と続ける反ノ塚に何度か首を横に振った。
「だってSSつくでしょ?アタシ、あれ嫌なの。
守ってもらうのも世話焼いてもらうのも嫌。1人暮らしならしたいって思うけどね。
それに仲良しだったお姉さんもSSになるって言ってから会う事なくなっちゃったし」
「へー」
へー、なんて軽い話じゃないんだよ。あんなに仲良かったのに・・・。
「野ばらちゃん。元気にしてるかなぁ」
「野ばら?」
ん?
「もしかして、雪小路野ばらか?」
「え、野ばらちゃんの事知ってるの!?」
「知ってるも何も、俺のSSやってるし」
ってぇ──!!
「お前が原因かっ!」
ずびしっ。座ったままの反ノ塚の脳天にチョップを食らわせれば気のない「いて」の声。
くそう。この脱力系め。
「悪い悪い。あ、今日俺アルバイトないし、迎えに来るからついでに会うか?」
「うー・・・・」
会いたい。けどお仕事中の野ばらちゃんの邪魔になりそうな気がする。
余計な気を使わせたくないし。あー、でも会いたいけど・・・うむむむ。
「そんなに悩むなら会えば良いのに」
「んー・・・でもやっぱ止めとく。邪魔するのは絶対嫌だから。
あー、堂々と会うためには妖館に入居が一番手っ取り早いかなぁ」
会いたいなぁ、野ばらちゃん。
「でもそんな理由で入居するのもなぁ・・・」
「ははは。ま、良いんじゃねぇの?入居する理由なんて人それぞれだろ」
「後、SSつくの嫌だなぁ。アタシ戦えるし拒否って出来るかなぁ?」
「さー。俺、戦えないからなぁ」
あ。そういえば一反木綿だったね。
「思紋お婆様に相談してみようかなぁ」
「その前に両親説得した方が良くね?女の子なんだし、何かと心配されるだろ」
「大丈夫だよ。あの人達はアタシに対して興味が薄いから」
とりあえず生きてたら何も文句言わないでしょ。
「うん。でもやっぱり野ばらちゃんには会いたいから相談してみるよ。
ありがと、反ノ塚!」
「おー、頑張れよ」
「うん、頑張る!」
それから思紋お婆様に相談して、両親に許可を得て、準備にあれよあれよと時間がかかって。
結局、妖館に入居が決まったのは3年になる少し前。
野ばらちゃんには驚かれたけど、歓迎してもらって本当に嬉しかったっけ。
そう。これが長い長い物語の始まり。
その前の、切っ掛けのお話。