鳥篭の夢

初遭遇



「──・・ぷは」

やっぱりお風呂上りは水分補給に限る、なんて思う。
それもミネラルウォーターよりスポーツドリンクのが好ましい。個人的に。
味は独特だけど、失ったものを補う点では優秀だし。

「ん?」

あれって・・。

「やっほー、たん。お風呂上りだね~」
「そういう残夏君もお風呂上りだね」

髪の毛濡れてるし。ラフな格好なのも珍しいかも。

「飲む?」
「え~、間接ちゅーになっちゃうけど良いの~?」
「あははは。アタシはそういうの気にしないから」

“良かったら”と言葉を続ければ、残夏君はお礼を言ってアタシからペットボトルを受け取った。
一度中身を飲むと笑顔でアタシに返してくれる。銀色の瞳って綺麗だよねぇ。
笑顔のままの残夏君にアタシもニッコリ笑顔。ん?コツコツと響く高い音。これは・・・靴音?


「久しぶりだな、M奴隷よ!」

・・・・・えぇっと?

「カゲたーん、久しぶり!遅かったじゃなーい」
「何、帰りがけに許婚殿をからかっていたらこんな時間になってしまってな。
それよりも新しいメス豚がいるな」

メス豚?いやいや、それを言うならメス鼬。って意味合いが違うんだろうけど。

「えぇーっと・・・?」

どちら様?
考えてたらその人がアタシの方を向く。

「私は2号室の青鬼院蜻蛉だ。これから宜しく願おう」
「2号室って・・あ、カルタちゃんのトコの!」

へー、この人がカルタちゃんのパートナーかぁ。

「ボクとそーたんと3人で幼馴染なんだよ。
放浪癖があるからいない事が多いんだけどね」
「残夏君とミケ君が幼馴染・・・?って何だか凄い絵面だなぁ」
「そう?たんと野ばらちゃんも凄い絵面だと思うよー」

いやいや。アタシと野ばらちゃんは普通だって。
それにこの青鬼院さんだっけ?も含めたら凄い目立ちそう。色んな意味で。

「新たな家畜よ、これから貴様も調教してくれる!
何。じっくりと従順な身体にしてやるから心しているが良い!」

漫画で見開きドーンみたいなポーズと台詞。何だか不思議な人。

「面白い人だね、えぇと・・・青鬼院さん?は」

あはは、何か変な笑いが出てきた。いや悪い意味じゃないんだけどさ。
怪しいマスクに加えて可笑しな発言。初めてのタイプでちょっと面白い。

「気に入った!貴様を私の新たな性奴隷にしてやろう!」
「は?いや、それは遠慮しときたいかも。
っていうかそもそもアタシにはちゃんと名前が──」
だろう?鎌太刀

ん、あれ?

「何で知ってるの?」

そういや名乗った記憶ないんだけど。

「残夏から聞いているぞ。奴の事を名前で呼んでいる事もな。
私の事も気兼ねなく名前で呼ぶが良い、!」
「あらら~。たん、カゲたんに気に入られちゃったねー」
「え、そうなの?
・・・うーん。まぁ考慮しておくよ、青鬼院さん」

イキナリ名前で呼ぶのも。あ、でも残夏君はすぐ呼んだっけ?
まぁそれは残夏君がそう言ったんだし。それなら青鬼院さんも一緒か。

「ふむ、遠慮する必要はないぞ!!
ん?それとも焦らしプレイのつもりか?はなかなかのSだな」
「あははは。いや、そうじゃないんだけどね。
青鬼院さんってやっぱり変な人だなぁ」

何だか笑いが止まらない。特殊ワールドだよね。
アタシには無い様な、ちゃんと“自分”を持ってる人って凄いなぁって思う。
しかもそれを突っ走ってる感じだし。ホントに凄い。

と、急に顔を掴まれて、顔を上げさせられれば青鬼院さんと目が合った。
仮面の奥から覗く綺麗な青。あぁ、目が青いんだ。なんて一拍置いてから理解。

「ならば呼べるな?」

低い落ち着いた声。さっきと打って変わったソレに何だか心臓がドキリと鳴る。
変な感じ。えぇと、名前──は。

「蜻蛉?」

で、良いんだよね?呼べば、満足気に口の端を吊り上げて笑う。
えぇと?良く分からなくて、じぃっと青鬼院さん・・・じゃなくて、蜻蛉を見ればバサリとマントを翻す。

「ではな!また会おう!!」
たん、おやすみー」

残夏君も手を振って蜻蛉についていく。

「あ、うん。おやすみ!」

何やらちょっかい出す姿。あぁ、やっぱり仲良しなんだなぁって思う。
アタシはもう少しだけ。この胸に残った変な感じがもう少し薄れるまで待ってから──。



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