それは一種の衝撃
「面白い人だね、えぇと・・・青鬼院さん?は」
くすくすと楽しそうに笑いながら返された言葉。
予想外の言とその態度に、驚きを隠せなかった感は否めない。
ただ不思議だった。
私の発言に不快に顔を歪めるでもなく、取り繕うでもなく、そう笑っていられる彼女が。
ただ気になっていた。
己を見上げるその屈託のない瞳が、向けられた声が、柔らかく揺れるその髪の一本すらも。
嗚呼、簡単にして単純明快な話だ。
私は彼女・・・鎌太刀に一目で惹かれたのだから。
「気に入った!貴様を私の新たな性奴隷にしてやろう!」
「は?いや、それは遠慮しときたいかも。
っていうかそもそもアタシにはちゃんと名前が──」
「だろう?鎌太刀」
どこか驚いたような僅かに瞠目した顔。
「何で知ってるの?」
「残夏から聞いているぞ。奴の事を名前で呼んでいる事もな。
私の事も気兼ねなく名前で呼ぶが良い、!」
「あらら~。たん、カゲたんに気に入られちゃったねー」
「え、そうなの?」
含みある笑い声。こうなると予測して私に名前を教えていたな?残夏め。
そして名前と簡易的な情報のみを与えて姿を見せなかった理由もそこにある。
私がに対してどう想うか知っていたのは明白。反応でも見て楽しむつもりだったか?
視えていたのか否かは分からんが、全く食えない奴だな。相変わらずのS。
「うーん。まぁ考慮しておくよ、青鬼院さん」
「ふむ、遠慮する必要はないぞ!!
ん?それとも焦らしプレイのつもりか?はなかなかのSだな」
「あははは。いや、そうじゃないんだけどね」
“やっぱり変な人”などと心外な言葉を続け、それでも彼女は笑っていた。
愛しいと、ごく自然に込み上げてくる感情。
触れたいと沸いて出た衝動に従って両頬を包み込むようにして、上を向かせる。
「ならば呼べるな?」
「・・・・・・蜻蛉?」
私だけを見つめる瞳。遠慮がちに私を呼ぶ声。
仕方ない、今はこれで満足してやろう。
手を離せば不可思議なものを見つめるような目線。ただ、ゾクゾクする。
「ではな!また会おう!!」
「たん、おやすみー」
残夏が挨拶をすればも“おやすみ”と返す。
私にではないソレにちりちりとした愚かしい嫉妬の念。
これはこれで面白い。己にそんな情があるとは思いもしなかった。
そう、それはまるで一種の衝撃で──。