親愛の証に
「ねぇねぇ、反ノ塚さぁ──」
「んー?」
一反木綿姿で普段よりも更に緩い返事。
あー、本当に何事に関してもやる気ないんだから・・・。
「進路希望の紙、まだ提出してないでしょ?
先生からわざわざアタシから伝えてくれって頼まれたんだけど」
「お、わりわり。そういや忘れてたわ。
つっても何したいとか未だ何にも考えてねーんだよなぁ」
今にも飛んで行きそうな布がふわふわと揺れる。
っていうか、もうアタシ達3年生なんだけど?
「流石に次の進路位は考えといた方が良いんじゃない?」
「そういうは何て書いたんだよ」
「えー。まぁアタシも将来何したいまでは考えてはないけど、とりあえず大学行くかなぁ」
行きながら考えるって言う、超先延ばし思考だけど。
「ははっ。らしいっちゃらしいな」
「そう?そっちこそ、何も考えてないのは反ノ塚らしいっちゃらしいけど」
将来どころか晩御飯すら考えて無さそうだよね、君は。
「そういえば──」
ん?ふと話に割ってはいるような言葉。見れば、ちよちゃんの姿。
珍しいね、ちよちゃんが話に入ってくるのって。
「鎌太刀さんは反ノ塚にだけ苗字呼びなんだな」
「え、あー・・そういえばそうだね。
同級生男子ってあんまり下の名前で呼ぶイメージないからなぁ」
でも良く考えたらミケ君はあだ名だし、蜻蛉と残夏君は年上なのに名前呼びだっけ。
「別にがわざわざモメンを名前で呼ぶ必要なんかないわよ」
「えー?」
野ばらちゃんの冷たい言葉に、肯定とも否定ともつかない返事。
んー、でも気付いちゃったら何だか気になるなぁ。
「じゃー・・・レン君とかってどう?連勝君だと呼びにくいし」
「おー。いんじゃね?それで」
「あはは。本当に反応が軽いよね、レン君は」
「んでも嬉しいのは嬉しいけどな。
ただ苗字で呼ばれるよりも何か仲良くなった感じするし」
まぁ元々はただ同じ先祖返りの同級生って感じだったからねぇ。
でも確かに苗字よりも何だか距離感は縮まるような気はする。
「一種の親愛の証だよね。あだ名とかって」
「だな」
「私を差し置いてと親密な関係になろうとは・・・略奪愛か?悦いぞ悦いぞー!
ただし貴様などには易々とは渡さんがな!!」
「意味わかんないし、黙らっしゃい」
ずびし。なんて軽く蜻蛉に裏手突っ込み。
てゆか何処から現れたの?あまりに唐突過ぎて流石にビックリした。
「あー、愛されてるな。」
「うーん。複雑怪奇な思いだね」
あんな変態から特別な愛をもらえるとは思ってもみなかったし。
いや、優しい人なんだ。それに本当に大切にしてくれてる。
それは分かってるんだけどね。アタシも好きだって思ってるし。でもとにかく変態だけど。
返事にふと噴出すような笑い声。気付けば人に戻ってたレン君の、ちょっと珍しいかも。
「ほんと、お前等といると飽きないよなぁ」
それは確かに。なんて声に出さずにアタシも胸中で同意した。